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阿武北スパイラル!

今日は非番、お休みだ。
特に予定も無い一日の始まりは惰眠を貪ってしまう。
特に二度寝をする瞬間は至福の時だ。
しかし休みだからといって怠惰な生活をしてはいけない。
睡眠の欲求をはね除け起床する。

「やだ、前髪くしゃくしゃじゃない……」

私はそう呟くと洗面所へと向かった。
髪型は私、阿武隈のトレードマークだ。
セットに妥協は許されない。

髪型にはかなりのこだわりがある。
そのためセットするのに時間がかかる。
だから普段は早起きをしなければならない。
それも毎日となると中々の労力を要する。
もっと簡単な髪型にすれば良いじゃないかと思うかもしれないが、お洒落とはそういう物だ。

髪型をキチンと整え、部屋へと戻る。

「今日は何をしよっかなぁ」

いつもの休みなら誰か暇な人を誘って出かけるのだが、今日は皆仕事だ。
一人部屋でゆっくりと過ごすのも悪くは無いが、せっかくなので出かけたい。

「よし、今日は買い物に行こう!」

私はざっくりとスケジュールを決め、外出の準備に取りかかる。
誰に見せるという訳でも無いのだが、ちょっとお洒落な服を着こむ。
女の子の嗜みというやつだ。

「よしっ、準備完了!」

時刻は午前10時くらい。
とりあえず適当な雑貨屋でも見て回り可愛い物を探そう。
部屋から出て、外へと向かう。

寮から出たところで、誰かに呼び止められる。

「あ、阿武隈ー」

「げっ、北上さん……」

私を呼び止めたのは北上だった。
彼女は私にとって天敵のようなものだ。
別に嫌いではないのだが、何故かとても苦手だ。

「阿武隈何してるのー?」

「出かけるところですけど」

「へー、今日は休みなのー?」

「そうです」

とりあえず適当にあしらってやり過ごそう。
まさか付いてくるとは言い出さないだろう。
たぶん。きっと。

「そっかー、どこに行くのー?」

「買い物にですけど……」

サッとこの場を離れないところだが、北上はそうさせてくれない。

「一人なのー?」

「一人ですけど……」

どうも良くない方向に話が進んでいる気がする。
何故か彼女は私にとても親しげにしてくる。
なかなか解放してはくれない。

「そっかー、じゃー私も行くよー」

「えっ!?何でですか!?」

案の定、北上は私に付いてくると言い出した。
彼女も私服なので非番なことは分かっていた。
もっと迅速に話を切り上げるべきだった。

「何でって、いいじゃーん」
「一緒に行こうよー」

「べ、べつにいいですけど……」

北上は私に対しては押しが強い。
一方、私は彼女に弱い。
流れ的にこうなるのは必然だったのだろう。

「なんで私なんですか?」
「大井さんとか居るじゃないですか」

「今日大井っちは仕事だしー」
「阿武隈は嫌なのー?」

「別に嫌じゃないですけど……」

さすがに嫌とは言えない。
そこまで言ってしまうのも可哀想かな、と思ってしまう。

「じゃー決まりねー」
「何買いに行こうかー?」

「雑貨屋に行こうと思います」

「いいねー、何か可愛い物探そうよー」

とりあえずは目的を果たそう。
雑貨屋で可愛い物い囲まれて心を落ち着けるのだ。
別に北上は私に何かしてくる訳では無い。
普通に対応すれば良いだけなのだ。

「じゃあ行きましょう」

二人並んで歩き出す。

「ねー阿武隈ー」

「何ですか」

「何で阿武隈は私に敬語なのー?」
「同じ軽巡なんだから普通に話してくれればいいのにー」

あまり気にしたことは無かったが、確かに敬語だ。
なんとなく一歩引いてしまっているからなのだろう。

「北上さんは雷巡じゃないですか」

「えー、同じようなものじゃん~」
「ねー、もっとフレンドリーに話そうよー」

北上は歩きながら私の髪をくるくる弄る。

「ちょっ、髪は触らないで下さい」
「髪型崩れちゃうじゃないですか……」

北上はよく私の髪を触るが、やめて欲しい。
髪型が崩れるとセットし直すのにも時間がかかる。

「阿武隈はいつも可愛い髪型してるよねー」
「セットするの時間かかるんじゃないのー?」

「かかりますよ」

「私なんて適当に三つ編みしてるだけだよー」

「いいじゃないですか、似合っていると思いますよ」

「本当にー?嬉しいなー」

北上は嬉しそうだ。
そんな彼女を見ていると私も少し嬉しくなってくる。

「ねー今度私の髪もセットしてよー」
「阿武隈、髪いじるの上手そうだしさー」

「別に良いですけど……」

「やったー、嬉しいなー」
「私もたまには女の子らしくしないとねー」

北上はとても無邪気だ。
何故私は彼女が苦手なのか、時々考えるが答えは出ない。

そうこうしているうちに目的の雑貨屋に辿り着く。

「北上さん、ここです」

「おー、ここが阿武隈イチオシの雑貨屋かー」
「私初めて来るなー」

「この辺りは可愛いお店がいっぱいありますよ」

雑貨屋の中に入る。
可愛い物に囲まれている時は心が安らぐ。
北上と一緒にいる緊張感も少しはほぐれそうだ。

「ねーねー阿武隈、これ見てー」

北上が持ってきたのは妙にリアルなカエルのぬいぐるみだった。

「これ可愛くないー?」
「この目とかさー」

「え……それですか……?」
「ちょっとリアル過ぎないですか……?」

可愛くは無い、と思う。
北上のセンスを疑わざるを得ない。

「そーかなー?」
「可愛いと思うんだけどなー」

北上はちょっとしょんぼりして別の物を物色し始める。
そして別のぬいぐるみを持ってくる。

「ねーねー阿武隈ー、これとかどおー?」

北上が持ってきたのは妙にリアルなヘビのぬいぐるみだった。

「きゃっ!?」
「な、なんですかこれは……」

「へびだよー」
「可愛いよねー、このつぶらな瞳とかさー」

「そ、そうですか……?」
「やっぱりリアス過ぎると思います……」

やはり可愛くない。
北上はいったいどんなセンスをしているのだろうか。

「そっかー」

またちょっとしょんぼりする北上。
しかし何かを思いついたかのように笑顔を取り戻す。

「でも、さっきのカエルと一緒に置いたら良くない?」
「弱肉強食って感じでさー、可愛いよねー」

「別に弱肉強食は可愛くないと思いますけど……」

「えー、そうかなー?」
「やっぱりダメなのかなー」

北上は落胆している。
可愛さに自信があったようだ。
何故自信を持っていたのか問い詰めたくなるところだが、気にしないでおこう。

「北上さん、可愛いとはこういう物のことを言うんですよ」

私はでっかいクマのぬいぐるみを北上に差し出した。

「おー、クマじゃんー」
「クマはちょっと特別なんだよねー、私球磨型だしさー」

そう言われてみればそうである。

「嫌いなんですか?」

「全然嫌いじゃないよー」
「むしろ好きかなー」

北上はクマをもふもふしながらそう答えた。
基本ぬいぐるみは好きなようだ。
あまり女の子っぽいのは趣味じゃなさそうなだけにちょっと意外だ。

「阿武隈の部屋にもこんなクマがあるのー?」

「ありますよ」

部屋には昔誕生日に買ったでっかいクマがある。

「えー、いいなー」
「私にも触らせてよー」

「別に良いですけど」

「ほんとにー?やったー」

これは北上が部屋に来るフラグではないか?
可愛さに気を取られていて、その展開は読めなかった。

「じゃー買い物終わったら阿武隈の部屋に行こうー」

「えっ!?今日ですか!?」

「うん、今日」
「休みだしねー」

やはりそういう展開だ。
北上と部屋で二人っきりは何か気まずい。
しかし断るのはさらに気まずいのでうんと言うしかない。

「ダメなのー?」

「いえ、良いですけど……」

「やったー、楽しみにしてるねー」

北上は嬉しそうである。
何故私の部屋に来るのがそんなに嬉しいのだろうか。
北上に好かれるような態度を取った覚えは無いのだが。

「ねーねー阿武隈ー、これみてー」
「14cm単装砲ストラップだってー、可愛いねー」

「いや、別に可愛くは……」

瞳を輝かせる北上。

「はい、可愛いですね」

あまりに嬉しそうなので可愛く無いとは言えなかった。
しかし全然可愛くないという訳では無いから嘘ではない、と思う。

「でしょー、いいよねー14cm単装砲ー」
「私これ買っていこうかなー」

「何に付けるんですか?」

「もちろん14cm単装砲にだよー」

単装砲に単装砲を付けてどうするのだろうか。
でも親子単装砲と考えると可愛いのかもしれない。
段々と自分のセンスに自信が無くなってきた。

「じゃー私買ってくるねー」

北上はレジへ向かった。
私は特に欲しいものは見つからなかった。
ぬいぐるみはもう部屋に沢山あるし。
小物も掘り出し物は無かった。

外で待っていると北上が店から出てきた。
手には小さい紙袋を抱えている。

「おまたせー」
「次はどうしようかー」

「そろそろお昼時ですね」

何だかんだけっこう長い時間雑貨屋にいたようで、すでに正午を回っている。

「んー、じゃあ間宮に行こうかー」

食事といえば間宮である。
もちろん艦娘達に大人気だ。
しかし二人っきりで行くのは少し抵抗がある。
誰かに見られたらどうしようか……

「ほらー、阿武隈行くよー」

北上は私の手を掴んで引っ張る。

「ちょっ!?北上さん!?」
「歩けますから、私ちゃんと歩けますから!」

抵抗するが手を離してはくれない。

「いーじゃん、行くよー」

強引である。
仕方が無いのでそのまま引っ張られて行く。

「ちょっと、恥ずかしい……」

小声で抵抗する。
私の頬は熱を帯びている。
北上はまったく意に介していない。
そのままどんどん進んでいく。

そして間宮に辿り着く。

「んー、やっぱり混んでるねー」

「そうですね、満席でしょうか」

中を除くが席は埋まっているようだ。

「ちょっと待つー?」

「はい」

混んでいるが、少し待てば空くだろう。
入り口のベンチで順番を待つことにした。

「あの、北上さん……」

北上は私の手を握ったままだ。
そろそろ離して欲しい。

「んー、なにー?」
「何食べようかねー?」

「え、決めてません……」

なかなか話を切り出せない。

「やっぱり昼はカレーかねー」

「そうですね、定番です」

昼食に間宮のカレーは定番メニューだ。
訪れる艦娘の半分くらいは注文しているのではないか。

「私は間宮カレーにするよー」
「阿武隈はどうするー?」

「私もカレーにします」

「やっぱカレーだよねー」
「早く席空かないかなー」

やはり手は握られたままだ。
そろそろ、だいぶ恥ずかしい。

「あの、北上さん……」

「んー、なにー?」
「あ、今日は私のおごりだからねー」

「えっ!?大丈夫です、自分の分くらいは自分で出せますから」

「今日は私が付いてきたんだしさー、私に出させてよー」

そう言いながら北上は私の顔を覗きこむ。

「でも……」

私は戸惑う。
別におごって欲しくて一緒に来たわけでは無いのだが……

「まーまー、気にしないでー」

北上は私の前髪を弄びながら答える。
私の手を握りしめながら。

「わっ、わかりましたから……」
「前髪は触らないで……」

「んー、そうそう、素直が一番だよー」

そう言いながら私の髪を撫でる。
北上はそんなに私の髪が好きなのだろうか。
髪型が崩れるからあまり触って欲しくはないのだが……
しかしニコニコしている北上にそう強くは言えない。

「北上さん、阿武隈さん、おまたせしましたー」

間宮がやって来る。
席が空いたようだ。

「おー、待ったよー」
「じゃー席に着こうかー」

北上は私の手を引っ張り席へと向かう。
そして向かい同士に座る。

「間宮さん、カレー二つねー」

「はーい、お待ちくださいねー」

間宮は注文を取ると厨房へ消えていった。

「早く来ないかな~」

北上は相変わらず嬉しそうだ。
そんなにカレーが好きなのだろうか。

「北上さんはそんなにカレーが好きなんですか?」

「んー、ふつーに好きだよー」

「でもすごく嬉しそうですよ」

「んー、阿武隈といるからじゃないかなー」

「えっ……」

私の体が一瞬にして熱くなる。
北上はさらりと恥ずかしいことを言う。
自覚が無いのか、躊躇いが無いのか。

そうこうしているうちにカレーが運ばれてくる。

「カレー、いただきまーす!」
「んー、美味しいね~」

北上は美味しそうに食べている。
私はまだ恥ずかしくて、俯いたまま食べ始める。

黙々とカレーを食べる。
今日のカレーはちょっと辛めだ。
冷めない体の熱もこれでごまかせるだろう。

そしてカレーを食べ終える。

「んー、美味しかったねー」
「ちょっと体が熱いかなー」

「そうですね、今日のカレーは辛めでしたから」

北上も少し汗ばんでいる。

「そだねー」
「体を覚ましに埠頭にでも行こうかー」

「そうですね、海風で涼みましょう」

埠頭は海を眺める艦娘達に人気のスポットだ。
人もそこそこ居るだろうし、何より気持ちが安らぐ。

「んー、じゃあお勘定済ましてくるから外で待っててー」

「わかりました」

外で待っていると北上が出てくる。
手に持っている紙袋が二つに増えている。

「北上さん、何か買ってきたんですか?」

「んー、ちょっとねー」
「それより、行こうかー」

北上はまた私の手を掴む。

「だ、大丈夫ですって!一人で歩けますから!」

「いーじゃん、行くよー」

北上はどんどん進んでいく。

「強引なんだから……」

私は小さく呟く。

北上は普段こんなに積極的ではない気がする。
もっとこう、適当なはずだ。
なんで私には積極的なんだろうか。
理由を考えてみても一向に思い浮かばない。

埠頭に辿り着く。
今日も海が綺麗だ。

「んー、やっぱりここは気持ちいいねー」

「そうですね、風が気持ちいいです」

二人、地面に座って海風に当たる。

「あの、北上さん……」

幸いなことに他に人はいないが、そろそろ手を離して欲しい。

「んー、なにー?」
「そういえば阿武隈はさー」

「え、なんですか?」

やはり話を遮られる。

「阿武隈は私のことが嫌いなのー?」

北上は私の顔を覗き込みながらちょっと不安そうに尋ねる。

「えっ!?何でですか!?」
「べ、べつに嫌いでは無い、です……」

「んー、ならいいんだけど」
「なんか一歩引かれてる気がしてさー」

普段は北上を避けているのはバレていたのだろうか。

「別にそんなことは無いですよ」

「そっかー……」

北上は少し悲しそうだ。
私はとても悪いことをしていたのではないかという罪悪感に駆られる。

「本当に、嫌いではないんです」
「ただ、ちょっと、苦手だなって思っていただけで……」

「んー……」
「ごめんねー」

北上は寂しそうに笑う。

「もう、本当に嫌いではないんです!」
「全然嫌ではないので気にしないで下さい!」

私は少し強めにそう宣言する。
北上の表情は少し輝く。

「そっかー、なら良かったよー」
「嫌われてるんじゃないかと心配しちゃったよー」

「その割には強引ですよね」

「そうかなー?普通だよー」

自覚は無いのだろうか。
でも強引なことに間違いは無い。
現にまだ私の手を握ったままだ。

「手を握りしめながらそう言われても説得力が無いです」

「おー、そうだった」
「すっかり忘れてたよー」

北上は無邪気に笑う。
でも手を離してはくれない。

二人は海風にあたる。
手を繋いだまま。
ゆっくりと時間が流れる。

「んー、そろそろ体も冷めたし戻ろっかー」

北上が立ち上がる。

「そうですね」
「この後はどうするんですか?」

「えー、阿武隈の部屋に行くんじゃないのー?」

そうだった、すっかり忘れていた。
私の部屋は……
昨日片付けをしたから散らかってはいない。

「良いですけど、約束もしましたし」

そして寮へと戻る。

「阿武隈はちゃんと部屋綺麗にしてるのー?」

「もちろんです」

昨日片付けをしておいて良かった。

「北上さんは綺麗にしているんですか?」
「散らかってそうなイメージですけど」

「ひどいなー、ちゃんと綺麗にしてるよー」
「大井っちがー」

予想通りであるが、やはりそうか。

「自分でしてるんじゃないんですか」

「自分でやる前に片付いちゃうからねー」

「まぁ、そうでしょうね」

大井は北上のこととなると行動力がすごい。
部屋の片付けくらいは朝飯前だろう。

そうこうしているうちに部屋に辿り着く。
あまり自分の部屋に人を入れないから緊張する。

「ここが私の部屋です」

北上を招き入れる。

「おー、可愛いじゃーん」

部屋は白とピンクで統一されている。
そして大量のぬいぐるみが飾ってある。

「これがでっかいぬいぐるみかー」

北上がクマに飛びつく。

「ちょっ、北上さん!あんまり暴れないで下さい!」

「いーじゃーん、可愛いしー」

「そういう問題じゃ……」

北上はクマをもふもふしている。
一通りいじり倒したところで起き上がる。

「そうだ、阿武隈ー」
「最中食べよう最中ー」

時間は午後3時を回っている。
おやつには丁度良い時間だ。

「え、うちに最中はありませんよ?」

「ちゃんと買ってきたよー」

間宮から出た時に紙袋が増えていたのは最中だったのか。

「じゃあお茶を入れますね」
「緑茶で良いですよね」

「うん、ありがとー」

北上は物珍しそうにキョロキョロと部屋を見渡している。

「別に変なものは置いてありませんよ?」

お茶を用意し戻ってくる。

「いやー、可愛い部屋だなーと思って」
「女の子って感じだよねー」

「別に普通です」

別に変なものは無いのだが、あまり見られるのも恥ずかしい。

「じゃー最中食べようかー」
「間宮の最中は絶品だからねー」

「そうですね、頂きます」

もぐもぐ。
やはり間宮最中は美味しい。
思わず顔がほころぶ。

「間宮最中、美味しいねー」

「そうですね、やはり最中は間宮に限ります」

最中はどんどん減っていく。
そして最後の一個を食べ終える。

「ごちそうさまー」

「ごちそうさまでした」

「んー、お腹いっぱいになると眠くなってくるよねー」

北上は横になりゴロゴロしている。

「もう、寝ないで下さいよ」

「いーじゃーん、阿武隈も一緒に寝ようよ~」

北上はクマに抱きつきながらうとうとしている。
本当に寝てしまうのだろうか。

「だめですよ、今寝たら夜寝れなくなるじゃないですか」
「ほら、起きて下さい」

「ちぇー、阿武隈は厳しいな~」

北上はちょっと不満そうに起き上がる。

「んー、まだ時間はあるねー」
「どうしよっかー?」

「そうですね、どうしましょうか」

夕食まではまだ時間がある。
しかしまた出かけるのも面倒くさい。
適当に時間を潰すのが良いだろう。

「阿武隈はいつもこーゆー時は何しているのー?」

「誰かと居る時は喋ったりして時間を潰しています」

「そっかー、じゃー私と話そうよー」
「女子トークってやつね」

そう言うと北上は私の隣に移動してくる。

「ちょっ、なんで隣に来るんですか!?」

「えー、女子トークするなら近くないとダメじゃないー?」

別に距離は関係無いと思うが。
北上の常識は謎だらけだ。

「距離は関係無いと思いますけど」
「別に良いですけど……」

「んー、ところで女子トークって何を話すのー?」

何故知らないのに女子トークをしようと言い出したのだろうか。
まぁ、別に女子トークと言っても普通に喋るだけなのだが。

「何でも良いんじゃないですか?」
「好きな事を話せば」

「えー、好きな子と話すのー?」
「それはちょっと私も照れちゃうな~」

「好きな事、です」

事の字が違う、字が。

「あははー」
「そうねー、私は阿武隈の髪が好きだなー」

北上はそう言うと前髪を弄り始める。

「ちょっ、髪は触らないで下さいよ」

「いいじゃーん、もう出かけるわけでも無いんだしさー」

「そうですけど……」

それでも髪型はキチンとしていないといけない。
ポリシーのようなものである。

「ホントに可愛い髪型だよねー」
「女の子って感じで、羨ましいなー」

北上は髪を弄るのをやめない。
そんなに私の髪が好きなのだろうか。

「北上さんもセットしたら良いじゃないですか」
「髪も長いんだし、色々できるんじゃないですか?」

「んー、でも面倒くさいんだよね~」

それを言ってしまってはお仕舞いである。
北上らしいと言えばそうだが。

「それじゃ何も出来ないじゃないですか」

「まー私はそんなに女の子っぽくないしー」
「あんまり可愛い髪型も似合わないからね~」

十分北上は女の子っぽいと思うが。
性格以外は。

「そんなことは無いと思いますけど」
「趣味は人それぞれですし、好きな髪型で良いんじゃないですか」

「そうねー」

そう言いながら北上は後ろ髪を引っ張る。

「ちょっ、髪を引っ張らないで下さい」

「なんかこう、長い髪が綺麗にまとまってると引っ張りたくならないー?」

「なりません!」

「何かレバーみたいでさー」
「こう、クイッとしたくなるよね~」

レバーとは失礼な。
もちろん引いても何も動かない。
いや、顔は動くが。

「全然なりません!」
「失礼ですね」

私は頬を膨らませてそっぽを向く。

「あははー、ごめんごめん」
「別に変な意味じゃないんだよー」

そう言いながら北上は私の髪を撫でる。

「別に良いですけど」

ちょっと怒り口調で答える。

「あの、そろそろ髪を弄るのをやめてくれませんか?」

北上はずっと私の髪を弄んでいる。
髪型が崩れてきた。

「えー、いーじゃん」
「私なんか阿武隈の髪すごく好きなんだよねー」

「なんでですか」

「なんでだろうねー?」
「良く分からないんだけど、触らなきゃいけない気がしてさー」

一体何なんだろうか。
私は北上に髪を触られるのは苦手である。
誰に触られるのも苦手なのだが、特に北上には。

しかし北上は一向に触るのをやめてくれない。
私は何故か北上には強く言えない。

「もぅ、別に良いですけど……」
「好きにして下さい」

抵抗するのを諦める。
そのうち飽きるだろう。

そうしていると北上が私の頭をガシッと両手で掴んだ。

「ちょっ、何ですか!?」

「んー、私、阿武隈を見てると不思議な気持ちになるんだよねー」
「何でだろう?」

北上はそう言って私を見つめる。
私は北上から目をそらす。

「何かこう、吸い寄せられるんだよねー」
「これが遠い過去の記憶ってやつなのかなー」

艦娘は過去の記憶が行動となって現れることがある。
しかし何があったか覚えている訳ではないので、何故かは分からない。

「私もそんな気がします」
「でも、あまり良い思い出ではないと思います」

私は北上に触られるのが苦手だ。
理由は分からない。
だから過去の記憶が原因であるなら、良い思い出ではないはずだ。

「んー、私もそんな気がするなー」
「でも私は嫌じゃないんだよねー」

そう言うと北上は私に顔を近づける。

「ちょっ、近い!近いですって!」

私はとても動揺している。
胸の鼓動が早くなる。
これ以上近づいてはいけない、そんな気がする。

「んー、何故か阿武隈には吸い寄せられるんだよねー」
「不思議だねー」

「本当にやめてください……」
「それ以上は、ダメです……」

私はとても不安になる。
良くないことが再現される気がして。

「んー、そうだ!」

北上は何かを思いついたようだ。
そして私を押し倒す。

「あっ……」
「な、何をするんですか!?」

私は為すがままにされる。
北上が近い。
私の体温が上がる。
頬は紅潮しているだろう。

「良くない思い出なら、良い思い出に書き換えちゃえばいいんだよー」
「名案だよねー」

確かにそうであるが、一体何をする気なのだろうか。

「だから、さ」

北上は私の前髪をかき上げる。
そして私の額にキスをする。

「なっ……」

私の体温はピークに達する。
顔は赤く、湯気が出ているだろう。

「ほら、これで良い思い出に書き換わったでしょ?」

そう言うと北上は私を抱きしめる。

「私、阿武隈と仲良くしたいんだー」
「だから逃げられるのはちょっと悲しいかな」

北上は悲しそうな声で囁いた。
彼女が感傷的になるのは珍しい。
彼女は何も気にせず、動揺しないと思っていた。
今までは。

そう言われてしまうと、私も無碍にはできない。
仕方が無いので北上を抱きしめ返す。

「これで良いですか?」

「うん、ありがとう」

北上は私の肩に顔をうずめながら呟く。
ゆっくりと時間が過ぎる。

私は北上をずっと苦手だと思っていたが、こうしているとそれを忘れてしまう。

暫くすると北上は顔を上げる。

「これでちょっとは阿武隈と仲良くなれたかな……?」

「そうですね」
「なれたと思います」

私は視線をそらしながらそう答える。

「でも目を合わしてはくれないんだねー」

「恥ずかしいからですよ!」
「言わせないで下さい」

「そっかー」

北上は私の頬に手を当て、満面の笑みで答える。

「よっと」

北上が起き上がる。
私は押し倒された体勢のまま、そっぽを向く。
まだドキドキは収まらない。

北上はいつも大胆だ。
そういうところはやはり苦手かもしれない。

「私、なんかすごくスッキリしたよー」

そう言うとまた私の髪を撫でる。

「良かったですね」

私はそっぽを向いたまま答える。
北上の顔を直視できない。

「あははー、阿武隈は可愛いなー」

「なっ、もう、そんなにからかわないで下さい」

「別にからかってなんか無いさー」
「本当のことだし~」

北上はニヤニヤしながら私の顔を覗きこむ。
絶対にからかっている。

「……別に良いですけど」

何故か悪い気はしない。
少し北上に慣れた、のかもしれない。

「じゃー私はそろそろおいとましようかなー」

「えっ、夕食は食べて行かないんですか?」

時間はもう午後6時近い。

「私が帰ったら寂しいのかなー?」

北上はニヤニヤしながら問いかける。

「全然寂しくなんか無いです」
「ただ、もうすぐ夕食の時間だったから」

別に全然寂しくは無い。
全然。

「一緒に食べたいのは山々なんだけど、私今日の夜秘書艦なんだよねー」
「そろそろ帰って仮眠しておかないとヤバいかなー」

「夜仕事なら私なんかと遊んでいたら駄目じゃないですか」
「ちゃんと休まないと辛いですよ」

夜から秘書艦なら、大体は次の日一日秘書艦だ。
前日に休養を取っておかないとけっこうキツい。

「いーじゃん、阿武隈と一緒にいたかったんだから」

北上は恥ずかしい台詞を恥ずかしげもなくサラッと言い放つ。

「それに適当に昼寝するから大丈夫だよー」

「駄目ですよ、ちゃんと仕事しないと」

北上が真面目に仕事をしている姿はあまり想像ができない。
適当にサボるのはお手の物なのだろう。

「ちゃんと仕事しないともう遊んであげませんから」

「えー、わかったよー、ちゃんとするから大丈夫だって」

北上は少し焦った表情でそう答えた。
いつも北上に良いように弄ばれているので、たまには反撃をしてみる。
やられてばかりでは気が収まらない。

「それなら良いですけど」

「うん、じゃあちゃんと仕事するために帰って寝るねー」
「今日は楽しかったよー、ありがとう」

「別に私は何もしていないです」

「でもありがとう」

北上は嬉しそうに私にお礼を言う。
別に私はお礼を言われるほどのことはしていないのだが。
まぁ、好きなようにはされていたが。

「あ、そうだー」
「阿武隈にこれをあげるよー」

北上は紙袋から14cm単装砲ストラップを取り出す。

「えっ?それは北上さんのじゃないんですか?」

「二つ買ってきたんだよー」
「だから一個あげるよー」

可愛いと言ったから私の分まで買ってきてくれたのか。
ちょっと気を使わせ過ぎてしまったのかもしれない。

「ありがとうございます」

素直に受け取る。
ちょっと嬉しい。
私も14cm単装砲に付けようかな。

「うん、これでお揃いだねー」

北上は嬉しそうに笑う。

「それじゃー行くよー」
「じゃーまたねー」

そう言うと北上は帰っていった。

「ふぅ……」

今日は忙しい一日だった。
北上の行動には驚かされてばかりだ。

だいぶ落ち着いてきたので夕食を食べに出かけよう。
髪を整え直し外に出る。

「今日の夕食は何を食べようかな」

そんなことを考えながら歩いていると、前から大井がやってくる。
彼女は私をものすごいジト目で見つめている。

私は踵を返して全力で逃げ出した。

「あぁ、やっぱり北上さんは苦手ー!」

大井は付かず離れず、追いかけてくる。
私の一日はまだまだ終わらないようだ。

- Fin -


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[ 2015/04/25 21:00 ] 艦これショートストーリー 短編 | TB(-) | CM(0)

がんばれ!足柄さん!4

清々しい朝、空には雲ひとつ無い青空が広がり、太陽も眩しく輝いている。
そんな爽やかな日差しの中、私は執務室で職務をこなしていた。

今日の秘書艦は足柄。
彼女はとても良くやってくれている。
が、今日も彼女はとても浮かない顔をしていた。

「ふぅ……」

彼女の唇から溜め息が漏れる。

「どうした足柄、またいつものやつか?」

私は毎度の如く気落ちしている彼女に問いかけた。
やはり男性から人気が無いがコンプレックスになっているようだ。
そもそも人気はあるのだが、何故気付かないのだろうか。

「はい、いつものやつです……」

足柄は暗い表情でうつむく。
が、何処か雰囲気が何処かいつもと違う気がする。
気のせいだろうか。

「足柄よ、そんなに気にしても仕方が無いぞ」
「人気とは作るものではない、生まれるものだ」

「そうなのですが、気になってしまうのは仕方が無いですよね?ね?」

やはりいつもと違う雰囲気を感じる。
落ち込んではいるようだが、作られたかのような違和感がある。

「まぁ仕方が無いが、何かで気を紛らすしかないだろう」

「そうですよね!」
「それで私、考えたんです!」

もはや嫌な予感しかしないが、提督としては逃げ出す訳にはいかない。

「そ、そうか、いったい何を考えたんだ?」

「もちろん、人気のある駆逐艦について、です!」

あれ、駆逐艦って言い切ったぞ。

「そうか、ところで何で駆逐艦なんだ?」

ストレートに疑問をぶつけてみる。

「それはもちろん、人気があるからです!」

ニヤニヤしながら彼女はそう答えた。
あからさまに怪しい。
これは良からぬ事を考えているに違いない。

「そ、そうか……」
「で、今回は誰の研究をしたんだ?」

今回は普通の、そう、吹雪みたいな普通の娘を選んで欲しいものだ。

「時津風ちゃんです!」

駄目だ!これは確実にダメなやつだ!
足柄に時津風のキャラはどう考えても似合わない。
そんなことはさすがの彼女も分かっているはずだ。
しかもすごくニヤニヤしている。
これは確信犯に違いない。

「そ、そうか……」

「はい!時津風ちゃんなら元気があって人気もあって」
「それでいて小動物のような可愛さがあって」
「これならイケる!って思ったんです!」

彼女はすごく嬉しそうに宣言した。
たしかに間違ってはいないが、問題はそれを演じるのが足柄ということだ。
絵面として、かなり面白いものになるということは明らかである。

「そ、そうか、やはり演じてみるのか?」

ダメ元で聞いてみる。

「もちろんです!」
「時津風ちゃんをマスターして、人気者になります!」

やる気だ。
彼女はやる気に満ち溢れている。
ここでやっぱりやめないか?などとは言えない。

「そ、そうか……」
「うむ、それも良いかもしれないな」

そう答えると、足柄の表情はまた何かを企んでいるようなニヤニヤ笑顔に染まる。
私が駄目だと言わないことを見越しているのだろう。

それにもちろん、本気で演じている彼女を笑うなどということは出来ない。
それがたとえ仕組まれたものであったとしても。
だからこそ、どんな演技であろうと冷静を保たなくてはならない。
提督たる者、艦娘を傷つけてはならないのだ。

絶対にそれを分かって言っているに違いない。
くそう、この策士が……

しかし、私は彼女にそんな仕返しをされるような事をした覚えは無い。
ただのいたずらだろうか?
それにしては捨て身戦法すぎる。

「うーむ……」

思わず悩みが声に出る。

「どうしたんですか提督?」

「いや、何でも無いさ」

危ない、気付かれるところだった。

しかし、本当に何なのだろうか。
電ちゃんの真似を笑いそうになったことに気付かれたか?
島風のコスプレを笑った事を根に持っているのか?
それとも妙高の説教から一人逃げたことだろうか?
それくらいしか思い付かない。

「じゃあ提督、さっそくやってみますね!」

私は思考を中断するしか無かった。
彼女の演技を全力で受け止めなければならない。
そう、全力で、笑わないように……

……

「しれぇー!」

ふふっ……
これはどう考えても面白い構図だ。
足柄は容赦なく初撃で私の頬筋を崩しにかかる。

「どうした足柄?」

しかしこれくらいでやられる私ではない。
まだまだ耐えられる余裕は十分にある。

「しれぇー、今日は何するのー?」

足柄は無邪気に問いかける。
声だけ聞けば無邪気で微笑ましいのだが。

「そうだな、まずは艦隊の再編成からだな」
「そして艦隊を遠征へ出そう」

「はーい、しれぇー!」
「誰と誰をどこの隊に入れるのー?」

非常に不可思議な光景だが、任務はつつが無く遂行していく。
その辺りはキッチリしているらしい。

「うむ、遠征指示も終わったようだな」

気づけば昼近くになっていた。

「しれぇー!お腹すいたー!」
「間宮に行こうよ、間宮ー!」

「そうだな」

さすがに外に出れば時津風の真似はしていられまい。
私は一時の安息を得られると確信した。

しかし、私の考えは甘かった。

間宮。
お昼時なだけに、混んでいる。

「しれぇー!何食べるのー?」

やめてくれ足柄、皆が見ている。
しかし足柄はお構い無しだ。
これを狙ったのだろうか。

「ねぇー!しれぇーってばぁー!」

わかった!わかったから静かにしてくれ!
周囲の視線が突き刺さる。

「そ、そうだな、やはり昼はカレーだな」

「足柄もカレー食べる食べる♪」

「よ、よし、好きなだけ食べるといい」

カレーを注文する。
カレーならすでに作られているはずだから出てくるのも早いだろう。
それに食べるのも早いはずだ。
素早く食べて帰れば傷は浅くて済む。

しばらくして間宮がカレーを持ってくる。
……とても渋い表情をしながら。

「はい、カレーおまたせしましたー」

「うむ、間宮、ありがとう」

「やったー!しれぇー、カレーだー!」

間宮の笑顔が引きつる。
そしてそそくさと早足で去っていった。

「足柄、そんなにはしゃぐでない」
「料理は静かにゆっくり食べるものだぞ」

「はーい、しれぇー」

もぐもぐ……
さすがに食べている間は静かだ。
そして私は彼女より先に食べ終えなければならない。
それは喋る隙を与えないためだ。

カレーを二人ほぼ同時に食べ終える。
かなり急いで食べたはずなのだが……
足柄め、同じことを考えていたな。

「よし、食べ終わったし出よ……」

「しれぇー!デザート食べたーい!」

私が喋り終える間も無く、足柄は大声でデザートをねだる。
やめてくれ、本当にやめてくれ……
まるで公開処刑だ。

「わかった、わかったから落ち着け」
「よし、この超弩級パフェ間宮スペシャルを頼もう」

私は迷いなく一番でかくて豪華なメニューを提案した。
これなら嫌とは言わないだろう。

「食べる食べるー!」

異論は無いようだ。

「ではこれを一つ頼も……」

「しれぇー!しれーは食べないのー?」
「足柄の分はあげないからねー!」

「わかったわかった、では二つ頼む」

勢いで二つも頼んでしまったが、食べきれるのか?
明らかに戦艦や正規空母用のサイズではないか……?

間宮がパフェを持ってくる。
一人では二人分を持ちきれないのか、伊良湖も手伝っている。
そして二人ともかなり渋い表情をしている。

「やったー!しれぇー、パフェだー!」

「わかった、わかったから静かに食べなさい」

でかい。これはでかい。
まるで間宮サイズのでかさだ。
どこが、とは言わないが。
食べきれるか不安になってきた。

足柄を見ると、またしても悪い笑みを浮かべている。
彼女は重巡洋艦である。
このサイズなら食べきれない、ということは無いだろう。

しまった!図ったな!
なんとしても食べきって、ヤツをフリーにさせないようにしなければ。

もぐもぐ……
くっ、カレーの後に超弩級サイズのパフェはキツイ。
足柄を見ると、余裕の表情だ。

「足柄、美味しいか?」

「おいしい!」

「そうか、よーく味わって食べるんだぞ!」

少しでも時間を稼ぐ作戦だ。
……彼女の食べる速度は変わらないが。

もぐもぐ……
おかしい、全然減らない。
むしろ増えている気さえしてくる。
一方足柄は、着実にその量を減らしている。

「足柄よ、私の分も食べていいのだぞ?」

「大丈夫!ちゃんと自分の分だけ食べる!」

こういう時だけは良い子だ。
そして足柄は食べ終えた。

「しれぇー!まだー?」

「そう焦るな、大人しく待っていなさい」

「はーい」

とりあえずは静かにしていてくれるようだ。
その隙に私はパフェを全力で平らげにかかる。

これは……キツい……
胃袋も限界へ達している。
しかし貴重な食糧を無駄にする訳にはいかない。

「しれぇー!まだー?」

パフェを一口食べる度、私の顔色は青ざめる。
私の顔色が青ざめる度、足柄の笑顔は輝いていく。
いったい私が何をしたというのだ……

「しれぇー!」

「しれぇー!」

「しれぇー!」

鳴り響くしれぇーコールを聞きながら、私はパフェを食べきった。
ついに成し遂げたのだ。

「よし、帰ろうか……」

満身創痍である。

そして執務室へと戻ってきた。
私はソファーに倒れこむ。

「足柄、すまない、私はしばらく動けそうにない」
「出撃指示を出しておいてくれないか」

「はーい」

足柄は無邪気に返事をすると、テキパキと仕事を進める。
彼女はとても有能な秘書艦だ。
有能なのだが、なぁ……。

しばらくするとお腹もこなれてきた。
足柄を見ると、机の引き出しを開け、ガサゴソと何かを探している。

「足柄、何か見つからない物でもあるのか?」

「しれぇー、こんなもの見つけたよー」

そ、それは……!
足柄が手にしているのは、私秘蔵の書だった。
決して女性に見つかってはならないやつである。

「足柄!それは極秘資料だ!」

足柄から秘蔵書を奪い取る。

「えー、そんな風には見えなかったよー?」
「だって女の人がー」

「いや!これは極秘資料だ!」

私は必死で抵抗する。
足柄は満面の笑みでにじり寄る。

「しれぇー!私に隠し事とか良くない、良くないなぁー!」

足柄は一歩、また一歩とにじり寄る。

「ま、まぁ、落ち着きたまえ」
「とにかくこれは極秘資……」

その時、足柄が飛びかかってきた。
二人はもつれ合い、床へと倒れこむ。

「足柄、やめないか……!」

私が混乱している間に、秘蔵書が奪い取られる。
足柄は私に馬乗りになる。
マウントポジションだ。

「しれぇー、この女の人、なんで裸なのー?」

足柄は開いた本を指さし、笑顔で問いかける。
くそっ、完全に私を追い詰めにかかってきている。
獲物を狩る狼のように。

「それは、そう、それは人の肉体を研究するためにだな……」

「この女の人、髪ながーい!スタイル良いー!」

その本に載っている女性は、栗色の長い髪が背中にかかっている。
そして凹凸がくっきりした見事なスタイルだ。

「まるで私みたーい!」

はっはっは。
おかしなことを言うやつだ。
髪型といいスタイルといいそっくりではあるのだが。

「しれーはこーゆー人が好みなのー?」

もちろんだ。
しかしそんな事を言えるはずはない。

「まぁ、それなりに、だな」

言葉を濁す。
確かにロングヘアーにロケット胸部装甲はストライクなのだが。

「そうなんだー、私みたいな人が好みなんだー」

足柄の笑顔は最高潮に達している。
まるで好きな子をいじめている時のような、そんな意地悪な笑顔。

「べ、別にそういう訳では」

否定してみるが、状況は好転しない。
足柄は更に私に近寄り、秘蔵書を突きつける。

「隠し事は良くない、良くないなぁー」

もう勘弁して下さい。
この状況を打開する方法は私には浮かばない。
力づくで跳ねのけようとしても腕力では全く叶わない。
しかし、ここで折れてしまっては提督としての威厳が……

「しれぇー、私なら……いいよ?」

足柄は意味深な言葉を放ち、体を密着させる。
そして、私の心はボキッと音を建てて真っ二つに折れたのである。

「悪かった、私が悪かった」
「だからもう許してくれ……」

私は懇願した。
足柄は何かを勝ち取ったような笑みを浮かべた。
そして真剣な眼差しへと変わる。

「提督」
「私、本気だったんですよ?」
「真剣に悩んでいたのに……提督は笑いましたよね?」

やはり笑いそうになったことがバレていたのか……

「そんなことはない!」
「私は真剣に受け止めて……」

もちろん、真剣に受け止めてきた。
それは間違いの無い事実だ。
しかし、思わず笑いそうになったのも事実だ。

「それに私にあんな格好までさせて……」
「笑われたうえに辱めまで受けるなんて……」
「私、すごくショックだったんですよ?」

足柄は少し悲しげな眼差しで私を見つめる。
そんな顔をさせてしまう事を私はしてしまったのだと後悔した。
私は足柄の心を踏みにじってしまったのだろうか。
自責の念に駆られる。

「悪かった、別に悪意があったわけじゃないんだ……」
「足柄が、その……面白かったから、つい……」

笑いをこらえてはいたが、表情に出ていたのだろう。
それに面白そうだという理由できわどいコスプレをさせてしまった。

「本当にすまなかった!」

もう隠し通せる事ではない。
私は本心を打ち明けて謝った。
そんな私を見て、足柄の頬が緩む。

「仕方ないですね」
「そこまで言うのなら許してあげましょう」

なんとか許しを得る事ができた。
提督としての立場は保たれたのである。
艦娘を傷つけるような事があってはならない。
私はその言葉をもう一度噛みしめた。

「あ、ありがとう!足柄!」

それを聞いた足柄は穏やかな微笑みを浮かべた。
どうやら彼女の機嫌は直ったらしい。
そしてまたニヤニヤ笑顔へと戻る。

「ところで、提督は私のことが好きなんですか?」

いつも秘書艦にしているという事はどういう事か。
察しているからこその問いかけだろう。

「足柄~、もう勘弁してくれ~」

「うふふ、ダメですよ♪」
「答えを聞くまで逃がしませんから♪」

……

こうして彼女の機嫌は直り、平和を取り戻した。
この平和を乱さないようにしなければと提督は誓った。
そして提督と足柄は日常へと帰っていったのである。

- Fin -


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[ 2015/04/22 21:00 ] 艦これショートストーリー 短編 | TB(-) | CM(0)

ナガト・スイート

食事処間宮。
そこは給糧艦間宮が切り盛りする食堂である。

間宮には沢山のメニューがある。
焼き魚や煮物、オムライスからハンバーグまで。
和食、洋食問わず幅広いメニューとその味が人気の秘密だ。

そんな間宮だが、昼三時時頃には甘味処間宮へと変貌する。
その名の通り、デザートを提供してくれるのだ。
その内容も、団子や饅頭、ケーキからパフェまで。
おやつを求める艦娘を和洋問わずのメニューで出迎えてくれる。

間宮は昼だけでなくおやつ時も大変なにぎわいを見せる。
艦娘たちが甘味と癒やしを求めて集うのだ。
それは提督も例外では無かった。

そして甘味処間宮では週に一度、新作デザートが発売される。
今日はその発売日である。

「長門、任務は順調か?」

「もちろんだ提督、抜かりない」

「うむ、さすが長門だ」

今日の秘書艦は長門。
彼女は凛々しく冷静な大人の艦娘だ。
もちろん秘書艦としても有能で、彼女がいる時は仕事の進みが早い。

まだ昼前であるが、大まかな仕事は片付いてしまった。
午後はのんびり出来るだろう。

「して長門よ、昼食はどうする?」

「そうだな、今日は辛いものが食べたいな」

辛いものが食べたい。
これは長門からのメッセージだ。

長門は辛いものが大の苦手である。
私も辛いものは苦手な方だ。
辛口と甘口しか無ければ迷わず甘口を選択する。

長門はそれに輪をかけた甘党だ。
中辛と甘口でも迷わず甘口を選ぶであろう。

そして「辛いものが食べたい」には「甘いものが食べたい」というメッセージが隠されている。
今日は間宮で新作デザートの発売日だ。
狙いはそれだろう。

「よし、長門よ、今日の昼食は間宮で辛口カレーにしよう」

「提督よ、分かっているではないか」

「もちろんだ」

提督と長門は、三時のおやつを食べに行く日の昼食には必ず辛口カレーを食べる。
それは周りに辛いもの好きである、というイメージを植えこむためだ。
そんな辛いもの好きの提督と長門がおやつにデザートを食べる訳がない。
そう思わせるのだ。

「よし長門よ、間宮に行くぞ!準備は良いか!」

「もちろんだ提督!ビッグ7の力、侮るなよ!」

そして二人は間宮に向かった。

「提督、長門さん、いらっしゃいませ」

間宮が出迎えてくれる。
席はほとんど埋まっている。
今日も繁盛しているようだ。

そして私達は席に付く。

「うむ、では第二水雷戦隊激辛カレーを二つ頼む」

第二水雷戦隊激辛カレー。
これは間宮カレーの中で一番の辛さを誇るメニューだ。

「あら、長門さんも同じで良いの?」

「もちろんだ、私は辛いものが好きだからな」

辛党アピールは忘れない。

「はーい、ではお待ちくださいね」

そう言って間宮は下がっていった。
そして提督はヒソヒソ声で長門に話しかける。

「長門よ、心の準備は良いか?」

「もちろんだ提督よ、この後のことを考えればこれくらい造作もない」

「うむ、さすが長門だ」
「この試練を乗り越え、共に楽園へと辿り着こう」

提督と長門は決意を固める。
楽園とはもちろん甘味処間宮のことだ。

「おまたせしましたー」

間宮がカレーを持ってくる。
芳醇でスパイシーな香り。
目が痛くなるくらい強烈だ。

「よし、早速いただこう」

そして二人はカレーを食べ始めた。
一口、また一口とカレーを口に運ぶ。
その度に大量の汗が吹き出し、滴り落ちる。

長門は涙目になりながらも順調にその量を減らしている。
私も負けてはいられない。
このカレーを制覇した暁には楽園が待っているのだから。

「ごちそうさま」

二人声を合わせる。
見事に完食したのである。

「長門よ、激辛カレーは美味しかったな」

「そうだな提督よ」
「やはりカレーは激辛に限る」

顔は真っ赤に火照り、瞳は涙で潤んでいるが、やはりアピールは忘れない。

「よし、帰ろうか……」

「提督、長門さん、またお待ちしていますねー」

間宮の声を聞きながら店を出る。
満身創痍になりながらも二人は執務室へと帰ってきた。

「提督……」

「いや、みなまで言うな、分かっている」

長門はソファーへと倒れこむ。
私も椅子へと身を委ねる。

「すまない提督、私はしばらく休ませてもらうぞ」

そう言うと長門はぴくりとも動かなくなる。
激辛カレーのダメージはかなりのものだ。

「うむ、私もそうするよ」
「まだ例の時刻まで二時間以上ある、その間に英気を養うのだ」

そう言うと提督も机に上半身を預け、動かなくなる。
そして二時間後の午後三時、提督が目覚める。

「長門、長門よ」

その声に反応して長門が目覚め、起き上がる。

「長門よ、ヨダレが垂れているぞ」

「む、すまない、見苦しいところを見せてしまった」

長門は腕でヨダレを拭き取ると、おもむろに立ち上がった。
二時間の休憩でカレーのダメージはすっかり癒えていた。

「時は来たれリ!」

提督と長門はそう宣言すると、執務室の隠し扉を開け放つ。
そこには変装セットが隠されていた。
大きめのサングラスにマスク、長いマントだ。

二人はサングラスをかけマスクをし、マントで全身を覆い隠す。
それはもちろん提督と長門であるということを隠すためだ。
二人仲良く三時のおやつを食べに来ていると知れたら提督の威厳はガタ落ちだ。
もちろん長門にも秘書艦としての立場がある。
常に緊張感を持って行動しなければならないのだ。

「長門よ、今日も完璧な変装だな」

「提督もな」

お互い変装に不備はないか確認する。
明らかに怪しいが、二人は完璧な変装だと疑わない。

「いざゆかん!楽園へ!」

二人はそう宣言すると、執務室を出る。
間宮までの道のりは裏道を使う。
なるべく人に会わないようにするためだ。

そして間宮へと辿り着く。

「いらっしゃい、お待ちしておりました」

間宮が出迎えてくれる。
そして私達は席へとついた。

「今日も新作でよろしいですか?」

「もちろんだ、二つ頼む」

迷いなく新作デザートを注文する。
二人は注文するときにメニューの内容を確認しない。
それは出てきた時の感動をより味わうためだ。

「Tよ、飲み物はどうするのだ?」

「そうだな、ちょっと渋めのものが良いな」

「ではTよ、ちょっと大人の重雷装ダージリンティーなどはどうだ?」

重雷装ダージリンティー。
これはちょっと大人のとある通り、渋みを少し強めに出した紅茶である。
甘味のお供には最適だ。

「よし、それにしよう」
「間宮、それも二つ頼む」

「はーい、ではしばらくお待ち下さいねー」

注文を取り、間宮が下がる。

「Tよ、今日も楽しみだな」

「うむ、Nよ、今日は何が出てくると思う?」

間宮ではT(提督)、N(長門)と呼び合う。
もちろん正体を隠すためだ。

「前回はチョコレート系だったから、今回はフルーツ系ではないか」

「Nよ、鋭いな、私もそう思っていた」

「さすがT、なかなかの洞察力だ」

お互い褒め合う。
この予想も楽しみの内だ。
そして二人の予想は大体的中する。
それほど間宮デザートへの思い入れが強いのだ。

「お待たせしました」

間宮がデザートを持ってくる。
予想通り、フルーツがふんだんに使われたタルトだった。

そしてタルトはホールで運ばれてきた。
普通に頼めば1/6カットなのだが、二人の場合は何も言わずともホールで出てくるのだ。

「見ろ!Tよ!このいちごを!」
「まるでルビーのようなみずみずしさではないか!」

「うむ、Nよ!このブルーベリーもなかなかだぞ!」
「まるで黒真珠の如き輝き!」

「なんと!Tよ!このグレープフルーツを見ろ!」
「まるで琥珀のような色艶!すばらしい!」

二人の賛美の声が店内に響き渡る。
もはや間宮名物と言っても過言ではない。

そして二人は食べ始めた。

「Tよ、うまい、うまいな」

長門は感動のあまり涙声になりながらもタルトを頬張る。

「うむ、Nよ、私は幸せだ」

提督の声は幸福に打ち震えている。
二人はゆっくり味わいながら徐々に平らげていく。

「Tよ……もう残り一口しかないぞ……」

悲しそうにつぶやく長門。

「心配するなNよ、私達はまだおかわりを二度残している」

「そうだな!間宮!おかわり!」

最後の一口を食べ終え、再度注文をする。

「はーい」

すぐに間宮がおかわりのタルトを持ってきた。
いつものことだ、準備していたのだろう。

二人は手を休めることなく二つ目のタルトを食べ始めた。

「Tよ、幸せだな……」
「私はこんなに幸せで良いのだろうか……」

またしても感極まった涙声でつぶやく長門。

「Nよ、それで良いのだ」
「共にこの幸せを噛み締めて生きてゆこう」

そして二つ目のタルトを食べ終える。

「Tよ、少し休憩にしないか」

「そうだなNよ、では休憩にチョコレート系でも頼もうか」

「Tよ、分かっているではないか!」
「ではこの対空射撃フォンダンショコラ集中配備はどうだ」

フォンダンショコラ集中配備。
これは名の通り、フォンダンショコラが山のように積み重なっている。

「む、前回の新作か」
「これもかなりの出来だった、よしそれにしよう!」
「間宮、集中配備を一つ頼む」

「はーい」

今日も間宮は忙しい。

「Tよ、一つで良かったのか?」

「Nよ、これは休憩だ」
「半分ずつ食べようではないか」

「そうだな、休憩ということを忘れるところだった」

これは舌休めである。
フルーツの酸味、チョコレートの苦味。
その二つを交互に食べることで、より一層その味を引き立てるのだ。

運ばれてくるフォンダンショコラ。
食べ始める提督と長門。
二人のスプーンの進む速度は衰えることを知らない。

一つのデザートを二人で食べあう。
傍から見ればまるでいちゃつく恋人同士のような光景だが、二人は気にしない。
山のように積まれたフォンダンショコラは、みるみるうちにその量を減らしていく。
そしてあっと言う間に平らげられてしまった。

「Nよ、やはりこのフォンダンショコラも素晴らしいな」
「この甘さと苦さの絶妙なバランス、サクサクした中にとろけるチョコ」
「最高の出来ではないか」

「Tよ、もちろんだ」
「それは前回証明されているだろう」

「そうだったな、感動のあまり忘れていたよ」
「しかし何度食べても感動を味わえる、やはり間宮は素晴らしい」

提督も長門も大絶賛である。
そこに間宮がやって来る。

「もう、そんなに褒めても何も出ませんよー」

手にはタルトを持っている。
まだ追加注文はしていないのだが。

一回の来店で三度新作デザートを注文する。
もはや恒例となっているため、何も言わずとも持ってくるのだ。

「そう言いつつタルトが出てきているではないか」

提督の声は期待に上ずっている。

「そうですねー」
「でも食べるのでしょう?」

間宮はニコニコしながら問いかける

「むろんだ」
「これが最後というのが口惜しい」

一回の来店につき三度の注文、これは提督と長門の決まり事だ。
食べ過ぎ防止と、品切れ防止を兼ねている。
さすがに間宮の新作を食べ尽くしてしまうのは他の艦娘に申し訳がない。

そして最後のタルトを食べ始める。

「Nよ、これが最後だ、よく味わって食べるのだぞ」

「もちろんだTよ、それに私はいつでも味わって食べている」

「そうだったな、言うまでも無いことだな」

三度目のタルトだが、食べる速度は衰えない。

「Tよ、うまいな」

「Nよ、私は今、生きていてよかったと実感している」
「おまえとこうして間宮に来れる、なんと幸福であろうか」

「Tよ、私もだ」
「いつまでも共に間宮に来ようではないか」

まるでおしどり夫婦のような会話だが、二人は気にしない。
それほどまでに感動しているのだろう。
そして二人はタルトを食べ終えた。

「Tよ……」
「おかわりは……」

長門は口惜しそうに問いかける

「Nよ、それは言わない約束だそ」

「そうだったな、すまない……」

長門は悲しそうな声で謝罪する。

「いや、構わないさ」
「それほどまでに素晴らしい甘味であったことは一目瞭然だ」
「だが、これで今日はおしまいだ」
「口惜しいのは分かるが、二人で決めたことだろう?」

「そうだなTよ、誓いを忘れてはいけないな」
「少々浮かれ過ぎているのかもしれない」
「気を引き締めなければ」

そう言うと、長門はいつもの声色に戻る。

「Tよ、そろそろ出ようではないか」
「あまり長いをしてしまっては申し訳ない」

「そうだなNよ、では帰ろう」

そう言うと二人は立ち上がる。

「間宮、ごちそうさま」
「今日の新作も絶品だったぞ」

「ありがとうございます」
「そこまで喜んで頂けると、給糧艦冥利に尽きるというものです」
「また来てくださいね、お待ちしていますー」

そして二人は間宮を出て、執務室への帰路に着いた。

「さてNよ、執務室に帰るまでが任務だ」
「気を引き締めて行くのだぞ」

「Tよ、心得ているぞ」
「よし、そこの路地裏から帰ろう」

長門は薄暗い路地裏を指さした。

「うむ、この道なら誰にも見られまい」

提督と長門は薄暗い路地裏へと消えていく。
まるで逢引のように。

そして執務室へとたどり着いた。
二人は変装を解く。

「ふぅ、やはりこの格好は疲れるな」

「Tよ、私達にも立場がある」
「それは仕方のないことだろう」

二人は提督と秘書艦である。
守らなくてはならない威厳というものがあるのだ、

「うむ、長門よ」
「ところでここはもう執務室だぞ、提督と呼ぶのだ」

「む、そうだったな、すまない提督」
「やはり気が緩んでいるのだろうか……」

長門は少し悲しそうな声でつぶやく。

「いや、問題ないさ、ここは執務室だ」
「ここなら誰の目にも触れない」
「思う存分感動を表現するとよい」

そう言うと、長門は提督へもたれかかる。
提督はそれを受け止め、抱きしめる。

「提督よ、こんなに幸せな時間は他には無い」
「あの素晴らしい甘味を毎週食べられる」
「それだけで全てのことが頑張れる気がするよ」

長門は涙ながらに感動を語る。
彼女はいつも秘書艦や旗艦を努めているため、常に気を張っている。
緊張から解放される瞬間というものは中々無いものだ。
それゆえ、その瞬間には感傷的になってしまう。

提督はそれをしっかりと受け止める。

「私も同感だ」
「辛いこともあるだろうが、二人で乗り越えて行こうではないか」

穏やかな時間が流れる。
幸せが二人を包み込んでいるかのようだ。

ガチャッ

突如執務室の扉が開いた。

「提督、少しよろしいですか?」

入ってきたのは陸奥だった。
しまった、完全に油断していた。
ここは執務室であるが、人がまったく来ない訳ではない。

「あら、あらあらあら」
「お邪魔してしまったようね、また出直すわ」

「ま、まて陸奥!」
「これは違うんだ!これは……」

長門は頬を赤らめながら必死で言い訳をする。

「別に構わないわよ?」
「二人の仲が良いのは皆分かっていることだわ」

陸奥はニコニコしながらそう答える。

「そ、それはどういう意味だ!?」

長門は軽くパニックになっているのだろう。
冷静さは感じられない。

「あら、そのままの意味よ?」

陸奥は冷静にそう答える。

「だ、だだ、だが!」
「それは提督と秘書艦としてだろう!?」

長門の声は震えている。

「もちろん、そうね」
「でも、悪いことでは無いでしょう?」
「そんなに落ち着きが無いと、色々疑っちゃうぞー?」

陸奥は少し意地悪に問いかける。

「そ、そうだが……」

「うむ、長門よ、落ち着くのだ」

提督は落ち着いた様子だ。

「陸奥よ、いったい何が望みなのだ!」
「何を、何を差し出せば良いというのだ!?」

提督は全然落ち着いていなかった。
買収する気である。

「あらあら、提督も落ち着いて下さい」
「別に私は言いふらしたりはしませんよ?」

「提督、落ち着くのだ、常に冷静であることは私達の使命ではないか」

長門はなんとか落ち着きを取り戻したようだ。
頬は紅潮したままであるが。

「うむ、すまない」
「少し感情的になっていたようだ」

提督も落ち着きを取り戻す。

「とりあえず陸奥よ、私達にやましいことは無いぞ?」

「そうだ陸奥よ、私が少し感傷的になっていただけで……」
「提督に落ち度は無いのだ」

二人は必死で言い訳する。

「そうね、分かっているわ」
「それに、別にやましいことがあってもいいじゃないの」

「そういう訳には!提督にも立場というものがあるのだ!」
「私がそれを貶めてしまうことなど許されるはずが無い……」

長門は悲しそうにそう答える。

「あらあら」
「立場とか威厳とかも大切なのかもしれないけれど、二人共もっと素直になるべきよ?」
「提督と秘書艦として立派に努めていることは皆分かっているわ」
「誰も二人の邪魔なんてしないわ」

陸奥は相変わらずニコニコしながらそう答える。

「しかし、本当にそんな意味では……」

長門は困惑している。

「あらあら、気づいていないのね」
「無理に進展させる必要も無いわ」
「少しずつ、自分の気持ちに気づいていけば良いもの」
「では私は戻るわ、お邪魔したわね」

そう言うと陸奥は去っていった。

「提督、すまなかった……」
「私が秘書艦としての立場もわきまえず……」

「いや、長門が悪い訳ではない」
「私とて気が緩んでいたことは確かだ」

二人は慰め合う。

「しかし、陸奥はどういう意味であんなことを言ったのだろうか」
「私と提督は別にそんな関係では無いというのに……」

「そうだな長門よ、私も同感だ」
「長門のことは嫌いではないが、そういった感情は……」

二人は見つめ合う。
長門は頬を赤らめ俯いてしまった。

「そういう感情は、無い、と思う……」

長門は少し恥ずかしそうにそう答える。

「私も、そうだと思う、たぶん……」

提督も照れているようだ。

二人は究極にうぶなのだ。
今まではそんな感情のことすら考えたことは無いだろう。
そこに陸奥が現れ、その感情を揺さぶっていったのだ。

「長門よ、私はおまえとならどんな関係になっても構わないと思っている」
「それほどおまえを信頼している、これは間違いの無い事実だ」

提督は真剣な眼差しで語りかける。

「提督……」
「私は、私も同じ気持ちだ」

長門も真剣な眼差しで見つめ返す。

「たとえどうなろうと、私とおまえの関係が変わることはない」
「信頼は揺らぐことが無いのだ」

提督は自信たっぷりに宣言した。

「うむ、提督よ、そう言って貰えると私も嬉しいぞ」

長門は笑顔でそう答えた。
つられて提督も笑顔になる。

「長門よ、これからも共に生きてゆこう!」

「ああ、提督、もちろんだ!」

……

こうして二人の時間は過ぎていった。
提督と長門はゆっくりと時間をかけてお互いの関係を構築するだろう。
もちろん、甘味を食べながら。
二人の情を結んだのは甘味かもしれない。
それが無ければお互いの距離はもっと遠かったであろう。

そして二人はまた間宮へと甘味を食べに行くのである。
手を取り合って。

「Nよ、何はともあれ、甘味だな!」

「Tよ、もちろん、甘味だ!」

- Fin -


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[ 2015/04/18 21:00 ] 艦これショートストーリー 短編 | TB(-) | CM(0)

大北スパイラル!

清々しい朝。爽やかな風と澄んだ空気。
眩しい朝日に照らされながら、私は執務室で職務をこなしていた。

今日の秘書艦は北上。
彼女はとてもマイペースだが、良くやってくれている。
サボりたがるのが玉に瑕だが。

今も彼女は大あくびをしながらマンガを読んでいる。

「北上、マンガを読んでいないで仕事をしなさい」

「えー、今私やることないじゃん~」

ナチュラルに断られる。
しかしこれでめげていては提督は務まらない。

「そんなことはない、仕事は山ほどあるぞ」
「さぁ働く働く!」

「えー、もうしょうがないなぁ~」
「何をすればいいのー?」

やっと重い腰を上げたようだ。
よしよし、その勢いで仕事を……

ん?何か地鳴りのような音が聞こえるぞ?
そしてそれは段々と近づいてくる。

ドドドドド……

ガチャン
執務室のドアが大きく開かれる。

「北上さんっ!」

やってきたのは大井だ。
まぁ、予想通りなのだが。

「んぁー、どうしたの大井っちー?」

北上は動じない。
慣れているのだろうか。

「北上さん!私、今日、非番なの!」

「おー、休みかぁ、いいなー」

なぜ非番なのにここにいるのだろうか。

「大井、北上を誘っても無駄だぞ」
「彼女は今日秘書艦だ」

そう言うと、大井は私を睨みつけた。

「分かっています!提督は黙っていてください!」

「す、すまん……」

あまりの迫力につい謝ってしまった。

「そうだよ大井っちー、私は今日秘書艦だから一緒には遊べないよー」

「残念です北上さぁん!」
「でも私、北上さんと一緒にいる方法を考えたんです!」

絶対に良からぬことを考えている。

「私、北上さんの秘書艦になります!」

いったい何を言っているのだろうか。
もちろん秘書艦の秘書艦なんていう仕事は無い。

「えー、大井っち仕事手伝ってくれるのー?」

北上は嬉しそうだ。
堂々とサボれるからだろう。

「ちょっと待て大井、秘書艦の秘書艦なんていう仕事は無いぞ」

「提督は黙っていて下さい!!」

「はい……」

相変わらず大井は恐ろしい娘だ。
思わず迫力に負けてしまう。

「私が北上さんを手伝えば、仕事が早く終わると思うの!」
「それでね、早く終わらせて遊びに行きましょう!」

「おー、いいねー!その案採用~!」

北上、勝手に決めないでくれ。
まぁ、こうなったら何を言っても無駄だろう。
手伝ってくれる分には悪いことは無いし、好きなようにやらせよう。

「仕方が無い、では北上と大井で分担して任に当たってくれ」

「はい!もちろんです提督!」

そして彼女達は仕事に取り掛かる。

「提督、艦隊の再編成終わりました」

「おお、ありがとう大井」

「提督、演習指示出し終わりました」

「おお、ありがとう大井」

「提督、遠征部隊出発しました」

「おお、ありがとう大井」

……すごい勢いで仕事が片付いていく。
こう見えても大井はかなりデキる娘だ。
性格がちょっとアレな以外は完璧と言っても過言ではない。

そして北上はマンガを読みながら大爆笑している。
大井が北上をダメにしているのではなかろうか。

まぁ良い、二人で作業分担?した結果だろう。
仕事は問題無く片付いているし、彼女達がそれで良いなら何も言うまい。

「そろそろ昼か、北上、大井、何か食べに行くか?」

「それでしたら提督、私が作りましょうか?」

「お、大井っち作ってくれるのー?」
「嬉しいなー、大井っちの料理、美味しいんだよねー」

北上絶賛である。
確かに大井は料理が上手い。

「うむ、では大井、よろしく頼むぞ」

「わかりました、では私作ってきますね」
「北上さぁん!待ってて下さいねー!」

大井は高速でキッチンへと向かっていった。

「提督ー、仕事は片付いたのー?」

「ああ、だいぶ片付いたな」
「この分なら、夕方には全部片付くかもしれないな」

恐るべし大井。
普段からこれくらい仕事に情熱を注いでくれれば良いのだが。

「じゃあ私、休憩してるねー」

「おまえはマンガ読んでいただけだろうが」

「あれ、バレてたー?あははー」

北上は呑気なものだ。
まぁ、そこが彼女の良いところでもあるのだが。

「北上さぁん!お昼ごはん出来ましたぁ!」

しばらくすると大井が戻ってきた。
手にはお皿を二つ持っている。

「今日はオムライスです!」
「さぁ北上さぁん!一緒に食べましょおぉ!」

「じゃあ、いただきまーす」

二人でオムライスを食べ始める。

「あ、あの、大井さん?」
「私の分は無いのかい?」

「ありません」

なんということだ。
大井はそんなに私のことが嫌いなのだろうか。
かなり傷ついた……

「冗談ですよ、ちゃんと提督の分も用意してあります」

冗談までもがキツい娘だ。
しかしちょっと安心した。
大井が私の分の皿を持ってくる。

「提督、ケチャップで何か書いてあげましょうか?」

なに!?一体大井に何があったというのだ!?
私は怪訝な顔で大井を見つめた。

「提督、なんですかその顔は?」

「いや、なんでもない」
「ではLOVEと書いてく……」

「嫌です」
「ではHELLって書いてあげますね」

本当に書かれた。
しかも語尾にハートが付いているところがまた憎らしい。

だがオムライスは美味しかった。
洋食屋が開けるんじゃなかろうか。

「ごちそうさまー、大井っち美味しかったよ~」

「本当!?北上さんに喜んでもらえたらな、私満足です!」

「うむ、本当に美味しかったぞ」

「そうですか、ありがとうございます」

この反応の差である。
いつものこととはいえ、すこし傷つく。

「では残りの仕事を片付けて……」

「提督ー、デザート無いの?デザートー」

北上はデザートをご所望のようだ。
しかしそんな物は無い。

「無いぞ」

「じゃあ間宮行こうよー間宮ー」

「ダメだぞ、それよりも仕事を進めなさい」

「えー、間宮いこうよ~」

いつもなら「ちぇーっ」とか言ってすぐに諦めるのだが、今日は珍しく諦めが悪い。

「間宮に何かあるのか?」

察した私は疑問をぶつけてみる。
北上の顔が輝く。

「そう、今日は間宮の新作デザートの発売日なんだよ」

む、新作か。
私は甘いものが嫌いではない。
むしろ好きだ。

実は私は間宮によく一人で行っている。
しかしサングラスとマスクで完璧に変装しているので、私だとバレてはいないだろう。
甘いものが好きとバレれば、私の硬派なイメージが崩れてしまう。

だが、誘われて行くのはやぶさかではない。
彼女達をダシに、ではなく彼女達の願いを叶えるために間宮に行くのは仕方が無い。

「そうか、そんなに行きたいか」
「では3時になったらな」

「本当に!?やったぁー!」

はしゃぐ北上、微笑む大井。
二人共嬉しそうで何よりだ。

そして3時、間宮に向かう。
途中、阿武隈に出くわした。

「あ、阿武隈だー」
「おーい、阿武隈ー、何してるのー?」

「げっ!北上、さん……」
「いえ、買い物から帰るところです」

そう言って阿武隈はそそくさと去って行こうとする。
それを北上が遮る。

「阿武隈~、今から間宮に行くんだけど一緒に行かないー?」

阿武隈は難しい顔をしている。
彼女は北上が苦手なようだ。
しかし北上は意に介していない。

「いえ、今はお腹いっぱいなので……」

そう言うと阿武隈は逃げ去ろうとするが、またしても北上が遮る。
珍しく北上が悪い顔をしている。
これは阿武隈をからかうつもりに違いない。

「いいじゃん阿武隈~、一緒に行こうよー」

ニヤニヤしながら阿武隈に詰め寄る。
たじろぐ阿武隈。

「ねー、行こうよ~」

北上は阿武隈の前髪をいじりながらしつこく誘う。
阿武隈は頬を赤く染め俯いている。
傍から見ると満更でもなさそうだが、阿武隈はうんとは言わない。

「ま、前髪を触るのはやめてください……」
「髪型、崩れちゃいます……」

まるでいちゃついているカップルのようだ。

……何か隣からドス黒いオーラが漂ってくる。
その発生源はもちろん大井だ。
北上が阿武隈にご執心なことにご立腹らしい。

「私、やっぱり……だめですっ!」

阿武隈は北上を振りほどき走り去って行った。

「行っちゃったねー」
「仕方ないかー、それより早く間宮行こうー」

北上はひとしきり阿武隈をいじり倒したことで満足したようだ。

「そうよ北上さん、そんなことより間宮行きましょうよ!」

阿武隈が去ったことで大井の黒いオーラも消えていた。

間宮に辿り着く。
先客は、長門・陸奥、赤城・加賀、それにビスマルクとプリンツか。
甘いもの好きが揃っているな。

私達は席についた。

「提督いらっしゃいませ」
「いつもありがとうございますねー」

間宮は一体何を言っているのだろうか。
私はいつも一人で来てなどはいない。

「うむ、間宮、新作デザートを頼む」

「はーい、お待ちくださいね」

周りを見渡す。
長門と目が合う。
彼女は口元に笑みを浮かべる。
私も同じく口元に笑みを浮かべ返す。

長門はよく一人で間宮に来ている。
変なサングラスとマスクで変装しているが、バレバレである。
しかし彼女も私には気づいているようで、妙な仲間意識が芽生えている。

そんなことを考えていると、間宮がデザートを持ってきた。

「おー、きたきたー」

「北上さん!これすごく美味しそうですね!」

「うむ、味わって食べるのだぞ」

北上と大井は嬉しそうに食べ始めた。
言い出しっぺの北上はともかく、大井も甘いものは好きなのだろう。
北上を見ては微笑み、デザートを口に運んでは微笑んでいる。
そんな二人を見ているとこちらまで幸せな気分になってくるものだ。

「うむ、旨いな」

思わず感想が声に出る。

「でしょー、来て良かったねー」

「もちろんです北上さん!」
「あっ、ほっぺにクリームが」

大井が北上の頬に付いたクリームを拭き取る。

「大井っちくすぐったいよ~」

阿武隈の時もそうだったが、いちゃつくカップルにしか見えないな。
北上は女の子に好かれる素質でもあるのだろうか。
そんなほのぼのした光景を眺めつつ、デザートを完食する。

「よし、食べ終わったし帰るか」
「二人共満足したか?」

「うん、もうお腹いっぱいだよー」

「美味しかったです、ごちそうさまでした」

三人とも戦意高揚したようだ。

そして執務室へと帰ってきた。
よし、この勢いで仕事を終わらせてしまおう。

「さぁ、残りの仕事を片付けてしまうぞ!」

「やっぱり食べた後って眠くなるよねー」
「もう寝ちゃおっかー」

「そうですね北上さん!一緒に寝ましょう!」

目を輝かせる大井。
寝るという単語に興奮しているようだ。

「駄目にきまっているだろう」
「さぁ、食べた分しっかり働きなさい」

「はーい」

大井が恨みがましい視線を送ってくるが、無視して仕事を進める。
そして夕方には大体の仕事は片付いてしまった。

「ふー、仕事もだいぶ片付いたねー」

「そうですね!北上さんが頑張ったおかげです!」

せっせと働いていたのは大井のような気もするが。
まぁ、今回は北上もマンガを読まずに頑張ってくれた。

「さて、もう夕方だが、夕食はどこかに食べに行くか?」

「提督、夕食も私が作りましょうか?」

昼食に続き、夕食も大井が作ってくれるようだ。
本当に性格がアレなこと以外は完璧だ。

「大井っち何作ってくれるのー?」

「大井特性カレーです!北上さんっ!」

「やったー、カレーだー」

皆大好きカレーだ。
これは鎮守府での定番料理であり、艦娘なら大体作ることができる。
そして作る艦娘により十人十色の味が楽しめる、人気のメニューなのだ。

「うむ、カレーか、楽しみだな」

大井のカレーは独特な味がして美味しいと評判だ。

「……私の分もあるよな?」

昼のトラウマが蘇る。

「もちろんです提督、私を何だと思っているんですか?」

そう思われるようなことをしたのはおまえだろう。
と言いたいところをぐっとこらえる。

「いや、それなら良いんだ」
「楽しみにしているよ」

「もちろんです」
「北上さぁん!待っていて下さいねぇー!」

大井は高速でキッチンへと消えて行った。
そして暫く後に大井が戻ってきた。

「北上さぁん!カレー出来ましたぁ!」

「おー、待ちかねたよー」

「うむ、良い香りがするな」

食欲をそそられるスパイシーな香り。
空腹時にはたまらないものだ。

「ではさっそくいただこう」

三人揃ってカレーを食べ始める。

「大井っち美味しいよー」

「嬉しい北上さん!頑張った甲斐がありました!」

「うむ、本当に美味しいな」

「そうですか、良かったです」

やはりこの反応の差である。
分かってはいても少し傷つくな。

「でも何か変わった味がするよねー」
「隠し味でも入れたのー?」

「それは秘密です!」
「言ってしまったら隠し味になりませんから」

「ちぇーっ」
「でも美味しいからいっかー」

確かに何か不思議な味がする。
考えてみるが、今までに味わったことの無い味だ。

「ごちそうさまー」
「もうお腹いっぱいだよー」

「北上さん!いっぱい食べてくれたんですね!」

「うむ、私もお腹いっぱいだ」
「それにしても何か、体が熱くなってきたな」

スパイスの効果だろうか。
それにしては体が火照り過ぎているような気がするが。

「えー、私は全然なんとも無いよー?」

私だけだろうか。

「北上さん、体が温まってきませんか?」
「体に良いスパイスをいっぱい入れたんですよ!」

大井の頬は紅潮している。
まぁ、北上を見る時の大井は大体紅潮しているのだが。

「んー、全然なんとも無いかなー」

「おかしいわね、なんで効かないのかしら……」

とても不穏な台詞が聞こえた。

「大井、いったい何を入れたんだ……?」

「普通のスパイスですよ?普通の」

あやしすぎる。
絶対に何か盛ったに違いない。
現に私の体は体から湯気が出そうなほど熱く火照っている。
大井を見つめるが、視線を逸らされる。

「んー、なんで私だけ何とも無いんだろうねー?」
「まぁいっかー、気にしても仕方ないしー」

「うむ、そうだな」

確かに気にしたら負けだろう。
北上に効果が無いのはすでに耐性が付いているからか。
大井はいつも何かを盛っているのだろうか……

しかし体の火照りがおさまらない。

「私は少し夜風に当たって体を冷ましてくるよ」

「行ってらっしゃーい」

「提督!二時間くらい夜風に当たってきて下さいね!」

そんなに外にいたら風邪を引いてしまうではないか。
そして私は執務室から外へ出る。

「きったかっみさぁーん!」

ドスンと何かが倒れる音がする。

「な、何!?大井っち!?」

「私も体が火照ってしまったのおぉ!」

「わかった、わかったから大井っち!」
「さ、横になって、良い子にして、ね?」

「あぁ、北上さん……優しくして下さいね……」

何か聞いてはいけない会話が聞こえた気がする。
これは本当にしばらく戻らない方が良さそうだ。
そして私は外へ出て、玄関前でしばらく涼むことにした。

しばらく涼んでいると阿武隈がやってきた。

「む、阿武隈、こんな所で何をしているんだ?」

「提督」
「北上、さんに、司令部からの伝言がありまして」

かなりタイミングが悪い。

「そうか、北上は執務室にいるが、今は入らない方が良いぞ?」

「でも、仕事、ですから」

そう言うと阿武隈は中へと消えていった。
修羅場の予感しかしない。
仕方ない、私も戻るか……

執務室に戻ると、案の定言い争う声が聞こえた。

「ちょっと!私と北上さんの邪魔をするなんて!」

「北上さんに伝言を届けるのが仕事ですから」

「そんなの後にすればいいじゃない!」

「おー、阿武隈ー、私に用事なのー?」

「はい、北上、さん……」

「ちょっと!今は私と北上さんで楽しんでいるのよ!」

うむ、予想通りの修羅場だ。
知らぬふりを決め込みたいところだが、そうも言ってはいられまい。
覚悟して執務室へ入って行く。

「おいおい、何をしているんだ」
「ここは執務室だぞ」

「提督は黙っていて下さい!」

「はい……」
「ではなくて、とりあえず落ち着きなさい」

ここで大井に負けてはいけない。
この自体を収めるのも提督の仕事の内である。

「大井、まずは冷静になるのだ」

「そうだよ大井っちー、落ち着いてー」

「北上さんがそう言うなら……」

一瞬で大人しくなる大井。
さすが北上が言うと効果は抜群だ。

「それで阿武隈は私に用なのー?」

「そうです、司令部からの伝言が……」

「そっかー、阿武隈から会いに来てくれるなんて嬉しいなー」

にじり寄る北上。
後ずさる阿武隈。
どこかで見たような光景だ。

「あ、あの、北上、さん……」
「近い、です……」

壁際に追い詰められる阿武隈。
更に接近する北上。

「えー?なにー?」
「阿武隈の髪型可愛いねー」

阿武隈を壁に押し付け、前髪を弄ぶ。
阿武隈は頬を赤く染め俯いたままだ。

「ねー阿武隈ー、せっかく来たんだからお茶でもしていきなよー」

積極的に誘う北上。
これはかなり珍しい光景だ。

「わ、わかりましたから……」
「だから、前髪は触らないで、お願い……」

「阿武隈は可愛いなー」

北上はとても楽しそうだ。
阿武隈はとても恥ずかしそうだ。
大井は……鬼の形相で佇んでいる。

「大井っちー、皆でお茶にしようよー」

北上に呼ばれて我に我に返る大井。

「あ、はいっ!み・ん・な・で!お茶にしましょう!」
「私、美味しい紅茶入れてきますね!」

北上と阿武隈、二人だけの空間を作るよりは皆でお茶をした方が良いと判断したのだろう。
そしてキッチンからティーセットとクッキーを持ってくる。

「ところで阿武隈ー、伝言って何ー?」

「あの、次の演習で重雷装艦の艦隊を相手にという話が……」

「私達が相手になればいいんだねー」
「大井っち頑張ろうねー」

「え?私もですか?」

「重雷装艦なんだから二人一緒だよー」

「北上さんっ!私、頑張ります!」

鬼の形相はどこへやら。
二人でと言われ、舞い上がる大井。
北上の一言で一喜一憂、天国と地獄を往復しているようだ。
ここまでくると逆に感心する。

「あの、私そろそろ帰りますね」

「おー、もう時間も遅いし送って行くよー」

またしても北上の爆弾発言だ。
そして鬼の形相へと舞い戻る大井。

「えっ!?あ、あの、私一人で帰れますから……」

「駄目だよー、女の子が夜一人で出歩くなんてー」

「でも帰りは北上さんが一人になってしまうじゃないですか……」

「私は重雷装艦だから大丈夫さー」

たしかに夜北上を襲う輩なんていないだろう。
そんなことをすればたとえ戦艦であろうと一瞬で海の藻屑だ。
そもそも鎮守府に他人を襲う輩はいないのだが。

「じゃあ大井っちー、私は少し出てくるから後は任せたねー」

「あ、はい……北上さん……」

北上は阿武隈と部屋を出て行く。
大井のテンションは地を這っている。

……もしかして、北上はサボりたいだけなのではないか。
まぁ、いない間に残りの仕事を片付けてしまおう。

「お、大井さん……?」

恐る恐る話しかける。

「なんですか提督」

「あの、残りの仕事を片付けてしまいたいのですが」

「そうですね、では仕事を進めましょうか」

あれ?以外と普通だ。
北上に後は任せると言われた以上、そうしなければならないという使命感があるのだろうか。
淡々と仕事を進めていく大井。
……なんだか可愛そうになってきた。

「あの、大井さん?」

「なんでしょう提督」

「なんで北上のことがそんなに好きなんだ?」

平素からの疑問をぶつけてみる。

「もちろん、北上さんは私の全てだからです」

「そうか、野暮なことを聞いたな」

聞くまでも無いことではあるが、大井にとって北上は特別なのだろう。

「北上さんは私にとても優しいんです」
「もちろん皆に優しいんですけど」
「それに北上さんはとても落ち着いていて」
「一緒にいるとすごく癒やされるんです」
「それでいてとってもチャーミングなんです」
「遊び心があるというか」
「それにとっても可愛いじゃないですか」
「もし艦娘コンテストがあったら優勝間違い無しです」
「それに北上さんは……」

この後ひたすら北上さんの素晴らしさを説かれたのである。

「そ、そうか」
「北上の良さは十分理解した」
「たしかに北上は素晴らしいな」

サボり癖さえ無ければ。
などと口に出しては言えないが。
そうこうしているうちに北上が帰ってきた。

「ただいまー」

「おかえりなさい北上さん!」
「私、北上さんがいなくてとっても寂しかったです!」

「よしよし、大井っちは寂しがり屋さんだねー」

「はい!私、北上さんがいないとダメなんですぅ!」

こっちはこっちでラブラブだな。
北上、罪なやつだ。

「仕事も片付いたし、そろそろ終わりにするか」

「賛成ー」
「私そろそろ眠いよー」

と期待させておいて。

「そう言いたいところだが」
「北上、今日は寝ずの番だぞ」

「えー、私できっかなー、無理っぽくないー?」

「北上さんっ!私も一緒に起きてますっ!」

「大丈夫だよ大井っちー、私一人で出来るからー」

「いえ!私なら大丈夫ですから!むしろ起きていたいです!」

「大井っちがそう言うなら、一緒に起きてよっかー」

「はいっ!もちろんですっ!」

……

こうして嵐のような一日は過ぎ去った。
北上と大井の仲の良さは十分に伝わった。
彼女達は常に同じ時を過ごしていくのだろう。
今までも、そしてこれからも。

「あー、今日も阿武隈は可愛かったなー」

「き、北上さぁ~ん」

北上、やはり罪なやつだ……

- Fin -


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[ 2015/04/15 21:00 ] 艦これショートストーリー 短編 | TB(-) | CM(0)

大型艦建造と大井

150412_大型艦建造_大井_母港

提督「ふふ~ん♪」
  「資源っ♪資源が溜まったぞ~♪」
大井「あら提督、楽しそうですね」
提督「む、大井か」
  「いや、資源が溜まったのでつい、な」
大井「よかったじゃありませんか」
  「もうすぐ大きな作戦があるのでしょう?」
提督「そうだ、資源は備えておくに越したことはない」
  「しかしだな、まだ期間はあるし、もう備蓄量も限界近いのだ」
大井「では何かに消費するのですか?」
提督「うむ、余裕のあるうちに大型艦建造でもしておこうかと思うのだ」
大井「良いのではありませんか」
  「今資源を使いきってしまっても、作戦までにはまた溜まるでしょう?」
提督「うむ、そうだな」
  「では大井、大型艦建造をしようではないか」
大井「わかりました」
  「では適当に建造しておきますね」
提督「うむ、よろしく頼む」
大井「任せておいて下さい」
  「それでは、私は北上さんの所へ……」
提督「ちょっと待て、今から建造するのではないのか?」
大井「今からですか?北上さんもいないのに?」
提督「いや、北上も今は任務中ではないのか?」
大井「そう言われてみればそうですね」
  「では今からやってしまいましょう」
提督「うむ、それが良い」
  「成功すればきっと北上も褒めてくれるぞ」
大井「北上さんが……!?」
  「て・い・と・く!」
  「早く大型艦建造しますよ!」
提督「お、おう……」
大井「で、誰を建造すれば良いのですか!?」
  「大和ですか!?武蔵ですか!?大鳳ですか!?それともまるゆ!?」
提督「ちょっと落ち着きたまえ」
  「大和は居るから、武蔵か大鳳を狙いたいな」
  「ここは残り資源に合わせて建造しようじゃないか」
大井「分かりました!ではさっそく材料を持ってきます!」
提督「お、おう」
  「なんか急にスイッチが入ったな……」

……

大井「さぁ提督!準備は出来ましたよ!」
提督「うむ、では建造前の祈りを……」
大井「そんなことより!早く建造しましょう!」
提督「大井よ、そんなに焦らなくても大型艦建造は逃げたりしないぞ」
  「それに成功させることが肝要なのだ」
  「建造前の祈りの儀式は必須だぞ」
大井「そういうものなのですか?」
  「仕方ありません、北上さんのために祈ります!」
提督「私のためにも祈ってくれないか……」
  「まぁ良い、十分に祈ったら建造を開始するぞ!」
大井「ええ、しっかりやりましょう!」
提督「では、大型艦建造、開始ー!」

カーン……カーン……カーン……

150412_大型艦建造_山城

提督「うーむ、ダメか」
大井「チッ、なんなのよ……」
  「祈りの儀式の意味なんて全然無いじゃない……」
提督「あの、大井さん……?」
大井「あら提督、何でしょう?」
提督「いや、なんでもないです……」
大井「そうですか?」
  「さ、次の準備をしましょう!」
提督「はい……」
大井「提督、元気ありませんね?お風邪ですか?」
提督「いや、ちょっと頭痛がしただけだ」
  「気にしないでくれ」
大井「そうですか?」
  「では、次の準備をしてきますね」
提督「ああ、頼むよ」
大井「さ、準備できましたよ!」
  「さぁ、早く建造しましょう!」
  「今すぐ建造しましょう!」
提督「少し落ち着きたまえ」
  「こういう物は気合いを入れすぎてはいけないのだ」
  「北上もそう言っていたぞ」
大井「北上さんが……!?」
  「北上さんの言うことなら間違いはないわ」
  「大丈夫ですよ提督、平常心、です☆」
提督「本当だろうか……」
  「まぁ良い、次の大型艦建造、開始するぞ!」
大井「さぁ、冷たくて素敵なボーキサイト、本当の力を叩きつけてやるのよ!」

カーン……カーン……カーン……

150412_大型艦建造_龍驤

提督「やはりダメか」
北上「チッ、なんで駄目なのよ……」
  「成功してもらわないと困るよの……」
  「この資源腐ってるんじゃないの……?」
提督「あ、あの、大井さん……?」
大井「はい、なんでしょうか?」
提督「いや、なんでもないです……」
大井「おかしな提督ですね」
  「やはり何処か具合でも悪いのですか?」
提督「いや、気にしないでくれ……」
大井「そうですか?」
  「提督がそうおっしゃるなら気にしないことにしますけど」
提督「うむ、私は問題ないぞ」
大井「分かりました」
  「資源は、まだあるわね」
提督「大丈夫か……?」
  「あまり使いすぎるのも次の作戦が……」
大井「大丈夫、です☆」
  「さぁ、次の建造をしましょう!」
提督「本当だろうか……」
  「信じるからな……?」
大井「心配しないで下さい、私もそれくらいはわきまえていますよ」
提督「そうか、では次の建造の準備だ」
大井「任せてください」
  「……準備、完了しました!」
提督「よし、では大型艦建造、開始ー!」
大井「海の藻屑となりなさいな!」
提督(藻屑にしたらダメだろう……)

カーン……カーン……カーン……

150412_大型艦建造_あきつ丸

提督「おぉ、あきつ丸ではないか!」
大井「チッ、あきつ丸って誰よ……」
  「陸軍?そんなの知らないわよ……」
  「海の藻屑にしてあげようかしら……」
提督「お、大井さん……?」
大井「なに!?」
提督「藻屑にしないで頂けると嬉しいなーって……」
  「それにあきつ丸はそこそこ当たりですよ?」
大井「え?そうなのですか?」
提督「うむ、北上もあきつ丸を建造していたぞ」
大井「ほ、本当ですか!?」
  「北上さんとお揃いなんて!」
  「これは運命ね、運命に違いないわ!」
  「さっそく北上さんに知らせに行かないと!」
  「きったかっみさーん!」
  「待っていて下さいねー!」
  「いますぐ北上さんの元へ向かいますからー!」

……

提督「行ってしまった……」
  「大井はなんというか、まぁ、すごいやつだな」
  「さて、残りの資源は……」
  「確認するのが恐ろしいな……」

150412_大型艦建造_残り資源

提督「あ、あれ?」
  「普通に残っているぞ?」
  「本当にわきまえて使っていたのか」
  「大井、やはりすごいやつだ……」

こうして提督の大型艦建造は終わりを告げた。
珍しく1万以上残っている資源と共に。

武蔵、大鳳の建造には失敗したが、資源はまた回復する。
大井は北上のため、また大型艦建造に挑むだろう。
そして提督はそれを見守るのであった。

- Fin -


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ゴーヤの罠 -提督の修羅場-

最近、鎮守府内で私に関する良くない噂が流れているらしい。
どんな噂かは分からないが、とにかく艦娘達からの風当たりが非常に強い。
困ったものだ。

そして今日も朝から執務室に艦娘が押し寄せてきた。

金剛「HEY!テートク!どういうことネ!説明するネー!」
提督「ふぅ……金剛、朝っぱらからいったい何なんだ」
金剛「しらばっくれてもだめネー!ネタは上がってるデース!」
提督「何のネタだ、何の」
   「まぁ良い、そのネタとやらを私に教えてくれないか」
金剛「そんなこと……私の口からは言えないデース!」
提督「ん?何故だ?遠慮は要らない、言ってみろ」
金剛「そんなに私に言わせたいのデースかー!?」
   「やっぱり提督はそんな趣味だったのデースネー……」
   「私、帰りマース……」

金剛はひとしきり騒ぎ立てた挙句、しょんぼりして帰って行ってしまった。
……一体何なんだ。
まったく見に覚えは無い。
困り果てていると、また別の艦娘がやって来る。

榛名「提督!」
提督「む、次は榛名か」
榛名「榛名は……榛名は怒っています!」
提督「榛名が怒るとは珍しい」
   「一体何に怒っているんだ?」
榛名「榛名というものがありながら、あんなことを……!」
提督「そのあんなこととは一体何だ?」
榛名「そんなこと、榛名の口からは言えません……」
提督「ん?何故だ?遠慮は要らない、言ってみろ」
榛名「提督、榛名は提督のことをお慕いしておりますが……」
   「やっぱりだめです!そんな趣味、許せませんっ!」
提督「一体私はどんな趣味なんだ」
榛名「提督は少しおイタが過ぎます」
   「榛名、しばらく口を聞いてあげませんから!」

こうして榛名は怒りながら去って行ってしまった。
榛名があそこまで怒るとは只事ではない。
これは原因を究明せねばならない。

提督「とりあえず、聞き込みだな」
   「よし、近場の戦艦寮から回ってみよう」

こうして戦艦寮に向かう途中、山城に出くわした。

提督「山城、ちょっと良いか」
山城「……」
提督「聞きたいことがあるのだが」
山城「……」
提督「私に関する噂を何か知らないか?」
山城「……」
提督「山城、何故喋ってくれないのだ?」
山城「不幸……だわ……」
   「提督に話しかけられるなんて、私、不幸だわ……」

山城は暗い顔をしながら去って行ってしまった。
これは何か本格的にマズいことになっている気がする。
なんとしても原因を究明しなければ。

戦艦寮に辿り着く。
寮には休憩しているビスマルクが居た。

提督「おーい、ビスマル……」
ビスマルク「!?」

ビスマルクは私を見るなり慌てて立ち上がり、顔を真っ赤にして逃げ去ってしまった。

提督「……ズボンのチャックでも開いていたか?」
   「いや、ちゃんと閉まっているな」

仕方なく他の艦娘を探す。
そして比叡を見つけた。

提督「比叡」
比叡「あ、指令!なんですかー?」

よかった、比叡は普通のようだ。

提督「比叡、最近私に関する噂を何か聞いていないか?」
比叡「うーん、そうですねー……」

比叡は顎に手を当て考え込む。

比叡「あ、そうだ!」
提督「む、何か分かったのか!?」
比叡「提督!間宮に食事に行きましょう!」
提督「比叡……真面目に考えてくれないか」
比叡「真面目ですってー!」
   「だって、食事のことでしょう?」

比叡は良くわからないことを言う。

提督「食事の時間にはまだ早いだろう」

まだ昼前だ。
昼食にしては早過ぎる。

比叡「そうですかー?」
   「でも食事に行きたいって言ったのは提督じゃないですかー」
提督「む?私はそんなことは言っていないぞ?」
比叡「あれ、違うんですかー?」
   「じゃあいいです、また今度行きましょう!」

そう言うと比叡は去って行ってしまった。
やはり良く分からない。
とりあえず、戦艦寮に他の艦娘はいないようだ。

提督「うーむ、次は空母寮にでも言ってみるか」

空母寮へ向かう。
すると途中で蒼龍に出くわした。
彼女なら何か知っているかもしれない。
しかし蒼龍は私を見ると怯えた表情で後ずさる。

提督「蒼龍、ちょっと聞きたいことが……」
蒼龍「やだ……やだやだ!」
提督「あの、蒼龍、何が嫌なのだ?」
蒼龍「やだ……やだやだやだぁ!」

そう言うと蒼龍は逃げ去ってしまった。
そんなに私のことが恐いのだろうか。

仕方ない、他の艦娘を探そう。
空母寮には加賀が居た。

提督「あの、加賀さん、ちょっといいですか?」

加賀は鋭い眼光で私を睨みつける。

加賀「……大概にして欲しいものね」
提督「あの、私はまだ何もしていないが……」
加賀「頭にきました」

そう言うと加賀は弓を構える。

提督「わ、私が悪かった!」
   「では、さらばだー!」

私は逃げるように空母寮から飛び出した。
加賀さんは完全にお怒りだ。
私はそんなに悪人にされているのだろうか。

何にせよ、原因を突き止めないことには手の打ちようが無い。
次は、軽巡寮にでも行ってみるか。

軽巡寮には北上と大井が居た。

提督「北上、大井、少し話しがあるのだが」
北上「んぁー、何ー?提督、どしたのー?」

よかった、北上は普通だ。

大井「提督!北上さんに近寄らないで!汚らわしい!」

大井は普通では無かった。

提督「いきなりひどい言われようだな」
   「なんだ、私の何がいけないんだ?」
大井「とにかく!北上さんには指一本触れさせません!」
提督「いや、別に触れはしないが……」
大井「触れずに!?触れずにですか!?」
   「なら視覚に入れることすら許しません!」
   「提督、早く消えないと酸素魚雷で本当に消しますよ?」
提督「分かった、分かったから落ち着いてくれ」
北上「んー、まぁ、いいんじゃないー?」
   「実害は無いんだし、趣味は人それぞれだしねー」
大井「だめです!北上さんを汚すことは私が許しません!」
提督「別に汚しはしないが……」

大井は完全に警戒モードだ。
取り付く島も無い。
北上からは色々と聞き出せそうだったが、諦めるしかないか。

提督「わかった、私は帰るから、落ち着いてくれ」
大井「わかりました、今すぐ出て行って下さい」

仕方なく軽巡寮から出る。
そこに川内と神通が通りかかる。

提督「神通、ちょっと良いか?」
神通「あの、提督、何でしょうか?」

神通は少し怯えているようではあるが、比較的普通だ。

提督「最近、私に関する噂を何か聞いていないか?」
神通「あの……そんなこと聞かれると、私、混乱しちゃいます……」
提督「混乱させるようなことを言ったか?」
神通「あの、私、そう言ったことは……」
川内「夜戦!?夜戦の話ー!?」
提督「川内、夜戦の話ではなくて、私の噂の話だぞ」
川内「やっぱり夜戦の話してるんだー!」
   「ねぇ夜戦!夜戦しようよー!」

駄目だ、川内の夜戦スイッチが入ってしまった。
これは早々に立ち去る他は無い。

提督「わかったわかった、また今度な」
川内「絶対だからねー!」
提督「うむ、ではまたな」

うーむ。
ここまで来て収穫は無し、か。
比叡と北上は普通だった。
川内はいつも通りアレだった。
他は、怒っていたり怯えていたり。
推測しようにも情報が無さ過ぎる。

提督「こうなったら、駆逐艦寮に行ってみるか」

駆逐艦達は比較的私に懐いてくれている。
彼女達からなら何か聞き出せるだろう。

駆逐艦寮に向かう途中で響に遭遇した。
声をかけようと思ったが、蔑むような視線に耐えかねて逃げてきてしまった。
幸先の良くない展開である。

そして駆逐艦寮にたどり着いた。
そこには漣、曙、潮が居た。
しかし潮は私を見るなり泣きながら逃げて行ってしまった。

提督「漣、曙、ちょっと良いか?」
曙「何よこのクソ提督!」

……曙は普通、か?

漣「なんですか?ご主人さまー」
提督「うむ、私に関する噂で何か知っていることはないか?」
漣「うーん、ご主人様は、スク水が好きなのかにゃ?」
提督「む?なぜスク水なのだ?まぁ、普通だが」
曙「このクソ提督!」
漣「でも提督指定じゃないですか?」
提督「そうだが、それは機能性の問題であって趣味では無いぞ」
漣「なるほど、メモメモ……」
曙「このクソ提督!」

曙はいつもより怒り気味な気がしないでもないが、とりあえずスルーだ。
しかしようやく新しいキーワードが出てきた。
それはスク水だ。
これは大きな前進ではなかろうか。
スク水といえば、やはり潜水艦が関係するのだろうか。

提督「うむ、ありがとう漣」
   「では私は次へ向かうとするよ」
漣「行ってらっしゃいませご主人さま~」
曙「このクソ提督!」

漣と曙を後にして、次の艦娘を探す。
そして清霜を見つけた。

提督「清霜、ちょっと良いか?」
清霜「しれーかーん!何ですかー?」
提督「清霜は、私の噂を何か知らないか?」

そう聞くと清霜は周りを見渡した。
周囲に誰もいないことを確認し、私を部屋へと引きずり込む。

提督「清霜……?一体なんだ?」
清霜「もう、しれーかんったら!……お姉様達には内緒よ?いい?」

そう言うと清霜は服を脱ぎ出した。

提督「ちょっと!ちょっと待て!清霜、早まるな!」
清霜「ん?なーに?」
提督「だから、服を来てくれないか」
   「憲兵に見つかったら私は捕まってしまう」
清霜「大丈夫!ここは私としれーかんしかいないからっ!」
提督「全然大丈夫じゃない!」
   「とにかくここは一旦落ち着いて、そうだ、間宮にでも行こう!」
   「何か甘い物を食べさせてやるぞ!」
清霜「本当!?行く行くっ!」

なんとかこのピンチを切り抜けたようだ。
それにしても何故清霜は服を脱ぎだしたのだろうか。
スク水、とは関係無いよな……?

とりあえず、言ってしまった手前、間宮に行かねば。
間宮に向かう途中、重巡や空母達とすれ違ったが、皆一様に驚愕の目線を向けてきた。
私と清霜が一緒に居ることがそんなに珍しいのだろうか。
清霜は意に介せず、ニコニコしながらついてくる。

とりあえず、間宮で甘味を堪能した。
清霜は満足そうだ。
まぁ、これはこれで良かったか。

そう思って間宮を出ると、陸奥に呼び止められた。

陸奥「提督、ちょっと良いかしら?」
提督「む、なんだ?」
   「清霜、すまないが一人で帰っていてくれないか?」
清霜「はーい、しれーかーん」

そして路地裏へと連れて行かれる。
まさか、提督狩りか……?

陸奥「おねーさん、提督の趣味に口出しするつもりは無いけど……」
   「清霜ちゃんに手を出すのはさすがにどうかと思うな」
提督「何を言っているのだ?間宮で甘味を食べただけだぞ?」
陸奥「そうやって甘いもので釣って、清霜ちゃんを食べるつもりだったんですか!?」
提督「ちょっとまて、清霜を食べるとはどういう意味だ!?」
   「私は怪物か何かか!?」
陸奥「提督……?」
   「最近流れている噂のこと、知らないんですか?」

そして陸奥から驚愕の事実が告げられる。
それは、私がゴーヤをオカズにしているというものだった。
私は頭を抱えた。

提督「はっはっは」
   「もちろん、ご飯のお供のおかずのことだよな?」
陸奥「もちろん、夜のオカズのことですよ」
提督「はっはっは」
   「何故だ……何故そんな噂が流れているのだ……」
陸奥「分からないけど、ゴーヤちゃんは嘘をついてまで悪い噂を流す子じゃないと思うな」
提督「それは私もそう思うが……」
   「ゴーヤは素直な良い子だ、ちょっと素直過ぎることもあるが」
陸奥「けれど火のない所に煙は立たないと言いますから」
提督「しかし火種なぞ無いぞ」
   「いや、待てよ……」
陸奥「心当たりがあるんですか?」
提督「うむ、最近ゴーヤをチャンプルーといってからかっていたのだが」
   「そう言うと、ゴーヤは決まってオカズじゃないよぅと言い返すのだ」
陸奥「……それ、ですね」
提督「……それ、だな」
   「まぁ良い、原因は分かった」
   「陸奥、誤解を解くのを手伝ってくれないか?」
陸奥「仕方ないですね」
   「おねーさんが手伝ってあげましょう」
提督「恩に着るよ」
陸奥「でも提督、ちゃんとゴーヤちゃんに謝っておくのよ?」
提督「うむ、ちょっとからかい過ぎたようだな、悪いことをした」
陸奥「よろしい、じゃあ私は行きますね」
提督「うむ、ありがとう陸奥」

そして私は潜水艦寮へと向かった。
ゴーヤに謝ってこの噂をなんとかせねば、ろくに外も歩けない。

しかし、途中で夕立と時雨に出会ってしまった。
私は何事も無いかの如く通りすぎようとするが、夕立に話しかけられる。

夕立「提督さん!」
提督「な、なんだ夕立?」
夕立「提督さんは最近ゴーヤをおかずにしてるっぽい?っていう噂を聞いたっぽい!」
提督「その噂は誤解だぞ」
夕立「提督さんはゴーヤを食べないっぽい?」
提督「もちろんだ、私は怪物ではないぞ」
夕立「よかったっぽい!私も食べられるかと思って心配したっぽいー!」
提督「はっはっは、安心したまえ!」
夕立「でも、食べないおかずってどういう意味っぽい?」
提督「そ、それはだな……」
夕立「どういう意味っぽい?提督さん、どういう意味っぽいー?教えて欲しいっぽいー!」

私は困り果て、助けを求めるべく時雨に視線を送る。

時雨「……提督には、失望したよ」
提督「待ってくれ時雨、それは誤解なんだ!」
時雨「……」
夕立「提督さん、時雨には教えるのに、私には教えてくれないっぽいー?」

これは駄目だ、私にはこの場を収める方法が思い付かない。
よし、逃げよう!

提督「はっはっは」
   「では、さらばだ!」

必死で走る。
どうやら追っては来ないよようだ。
助かった。

そして潜水艦寮へと辿り着く。
そこでイムヤに出会った。

伊168「あぁん!水着が破けちゃうじゃない!」チラッチラッ

イムヤは水着を破き、こちらをチラチラ見つめている。
これは、アピールしているのだろうか?

提督「あの、イムヤさん……?」
伊168「水着が破けちゃうじゃない!」チラッチラッ
提督「いや、私はスク水に興味があるわけでは無いからな!?」
   「断じて違うからなー!」

私は逃げ出した。
もう嫌だ、早くこの噂をなんとかしなけえば。

次にイクに出会った。

伊19「提督!」
提督「む、イクか」
伊19「提督はスクール水着が好きなのね?」
提督「いや、それは違……」
伊19「そうなのね!イクをオカズにしてもいいのねー!」
提督「いや、断じて違うぞー!」

私はまたしても逃げ出した。

そしてようやくゴーヤの元へと辿り着く。
長い、長い道のりだった。

提督「ゴーヤ!これはどういう……!」
伊58「提督が、提督がいけないのでち!」

ゴーヤは頬を膨らましてそっぽを向いてしまった。

提督「別に悪気があった訳では……」
伊58「ゴーヤは傷ついたでち」
提督「それでこんな噂を流したのか……?」

ゴーヤは相当怒っているのだろうか。

伊58「提督がゴーヤをチャンプルー扱いするからいけないのでち!」
   「だから皆に相談したでち!」
提督「相談……したのか?」
伊58「そうでち!提督におかず扱いされない方法を相談したのでち!」

やはりそういうことか。
途中でおかずの意味が変わってしまったのだろう。
噂とは得てしてこういう物だ。

提督「……すまんかった。だからもう皆に言うのはやめてくれないか」
伊58「みんな同情してくれたでち、提督も悔い改めるのでち」

なんとかゴーヤの機嫌を直すことに成功した。
私はようやく安堵することが出来た。
これでまた平穏な日々が戻ってくるであろう。

……しかし、提督への風当たりはしばらく強いままであった。

- Fin -


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[ 2015/04/11 21:00 ] 艦これショートストーリー 短編 | TB(-) | CM(2)

がんばれ!足柄さん!3

清々しい朝、空には雲ひとつ無い青空が広がり、太陽も眩しく輝いている。
そんな爽やかな日差しの中、私は執務室で職務をこなしていた。

今日の秘書艦は足柄。
彼女はとても良くやってくれている。
が、今日も彼女はとても浮かない顔をしていた。

「ふぅ……」

彼女の唇から溜め息が漏れる。

「どうした足柄、また例の悩みか?」

私はまたしても気落ちしている彼女に問いかけた。
そんなに男性から人気が無いことが嫌なのだろうか。
いや、実際は人気があるのだが。

「そうなんです、ずっと悩んでいるんですけど……」

またしても思い詰めているようだ。
こういう時は大概良くない方向へ進む。
そんな彼女を止めなければならない。

「私、色々と考えたんです」

今度は何を考えたのだろうか。

「それで、思ったんです」
「今までは可愛らしさを求めすぎたのかなって」

そうだ、今までは足柄の方向性とは異なるチョイスばかりだった。

「うむ、そうか」
「過去を振り返って糧とする、素晴らしいことだ」

今度は良い方向に進む気がしてきた。

「だから、もっと淑やかな艦娘を研究しました!」

「いったい誰を研究したんだ?」

「天津風ちゃんです!」

またしても駆逐艦である。
なぜなのか。

「そ、そうか」
「彼女は落ち着きがあり淑やかな艦娘だからな」

足柄とは真逆のタイプである。

「そうなんです!やっぱり男性はそういう女性が好みなのかなって!」

間違ってはいないが、やはり間違っている。
だが彼女のやる気を削ぐ訳にはいかない。
ここはどんと受け止めてやるのが提督というものだ。

「そうだな、天津風のような甲斐甲斐しい女性には惹かれるものだ」

天津風はツンデレ、と思わせておいてかなり甲斐甲斐しい女性だ。
そのギャップがたまらない。

「そうですよね、だから私も尽くす女性を演じてみようと思います!」

演じるだけでは駄目な気もするが。
まぁいい、好きなようにやらせてやろう。

「そうかそうか、チャレンジするのは良いことだぞ」

「はい!私の甲斐甲斐しさに酔いしれて下さい!」

自信満々である。

「うむ、ではやって見せてくれ」

「任せて下さい!」

……

「今日も良い風ね……」

「うむ、そうだな足柄よ」

「どういう風の吹き回しかしら?」

どうもこうも無いが。

「む?他意はないぞ?」

毎回だが、唐突だ。
台本でもあるのだろうか。

「やだ、髪は触んないでよ、吹き流しが取れちゃうじゃない」

もちろん触っていないし、吹き流しは付いていない。

「すまないな、気になったものでな」

しかし話に合わせてやるのが提督の努めだ。

「朝よ、朝食を用意しておいたわ」

またしても唐突だが、気が利くではないか。

「勝利定食でいいわよね?」

あれ、天津風といえば和朝食ではなかったか。
それ以前に勝利定食って何だ。
ま、まぁ、気にしたら負けだ。

「うむ、頂こう」

カツがどっさり盛られている。
朝からヘビーである。

「そろそろ艦隊を本格的に動かす時間よね、どうするの?」

「うむ、艦隊を再編成して遠征に出そう」

仕事はきっちりこなすようだ。
ところで、隣にいる物体は何だろう。

「なに?20.3cm(2号)連装砲くん?可愛いでしょ、艦首にちょこんと」

ちょこんと、どころではない。
またしても3体もいるではないか。
圧倒的存在感である。

「そろそろお昼ね、カレーでいいかしら?」
「わりと得意なの、本当よ?」

「うむ、頂こう」

カレーか、スタンダードだが悪くない。
そう思っていた時期が私にもありました。

「私のカツカレーどうだった?」

「う、うむ、美味しかったぞ」

「うんっ、よろしいっ!」

昼もヘビーである。
なぜまたカツなのだろうか。
まぁ、美味しいから良いのだが。

そして仕事はつつが無く進行してゆく。
平和だ、実に平和だ。
食事がカツなこと以外は今のところ普通に過ごしている。

しかし、20.3cm(2号)連装砲くんが突如暴れだした。

「おかしいなぁ、20.3cm(2号)連装砲くんの機嫌が悪い……なんで?」

20.3cm(2号)連装砲くん!頼むから暴れないでくれ!
うわ、砲塔を振り回さないでくれ!
危ない、今頬をかすめたぞ……

「あ、足柄よ、なんとかしてくれないか」

「20.3cm(2号)連装砲くん、大丈夫よ、落ち着いて!」

足柄は20.3cm(2号)連装砲くんの砲塔をわし掴み、腕力で押さえつける。
20.3cm(2号)連装砲くんは暫くジタバタしていたが諦めて大人しくなったようだ。

「ふぅ、落ち着いたようね」

やや強引な気がしないでもないが、命の危機は去ったようだ。

そして日は落ち、宵の刻がやって来る。

「そろそろ夕食の時間ね」
「カツ揚げる感じでいい?」

あれ、天津風といえば焼き魚ではなかったか。
しかしまたしてもカツである。
そんなにカツが好きなのだろうか。

「う、うむ、よろしく頼む」

もっとこう、男ウケしそうな料理は他にあるだろうに。
定番といえば肉じゃがか、やはり和食はポイントが高い。
女子力の高そうなオムライスやハンバーグも良いかもしれない。
だが彼女の料理辞典にカツ以外の文字は存在しないらしい。

「どう?おいしい?」

「う、うむ、もちろん美味しいぞ」

「そう、よかった!」

胃もたれが気になるところだが、喜んでくれているので良しとしよう。
……後で胃薬を飲んでおこう。

コンコン
食事の余韻に浸りつつ休息していると、ノックの音が聞こえた。
来客だろうか。
これはまた嫌な予感がする。

「入りたまえ」

ガチャッ

「失礼します」
「提督、この書類の件で伺いたいことが」

入ってきたのは羽黒だった。
そういえば処理を依頼していた書類があったな。

「うむ、何か判らないことでもあったか?」

「あら、羽黒元気?」

嫌な予感は更に高まる。
足柄よ、頼むからしばらく黙っていてくれ。

「元気ですよ?姉さん、急にどうしたんですか?」

「えっなに?競争?しないわよ!夜だし!」

明らかに困惑する羽黒。
天津風といえば、島風がやってきて競争を迫られるイベントがあるが。
しかし羽黒はそれを知らないだろう。
そもそも足柄が天津風を演じていることを知らないだろう。

「競争って、何のことでしょうか……?」

「だから競争なんてしないって!羽黒しつこーい!」

やめてくれ足柄、後で妙高に怒られるぞ。
私まで一緒に怒られかねないじゃないか。

「ご、ごめんなさいっ!」
「私、帰ります!」

羽黒は涙ぐみながら走り去って行った。
あーあ、私は知らないからなー。

「やっと帰ったわね、もう、なんなんだか……」

おまえの方がなんなんだかだよ。
ここまで台本通りに動くと逆に清々しいな。

「そろそろ今日も終わりね」
「一日ご苦労様、また明日ね」

「うむ、今日もご苦労だった」

……

「提督、どうでしたか?」

「うむ、中々の天津風っぷりだったぞ」

ある意味、完成度は高かった。

「そうですか、これならいけそうですね!」

いや駄目だろう!
何と言うか、とてつもない違和感があったぞ。

「まぁ待て足柄」
「天津風といえば忘れていることが無いか?」

天津風といえば、アレである。

「えっ?何でしょうか?」
「私の天津風は完璧だったと思うのですが」

「足りないもの、それは服装だ」

天津風といえば、あの島風をも超える官能的な衣服だ。

「えっと、提督、それはさすがにちょっと……」

「何を言う!天津風を極めんとすれば服装を真似るのは必須!」

よし、面白い展開になってきたぞ。
もう一押しだ。

「一応用意してあることはあるんですが……」

用意してあるんかい。
準備が良いと言うか何と言うか。

「ではさっそく着て見せてくれないか」

「し、しかし……」

「足柄、君なら絶対に似合うから心配はいらない」

「そうでしょうか?そこまで言うなら着てみます」

やった!

「うむ、待っているぞ」

ガサゴソ
隣の部屋で着替える音がする。

「ていとく……」
「これはやはり恥ずかしいです……」

扉から顔だけ覗かせた足柄が恥ずかしそうにしている。
うーむ、この光景だけで男性は心奪われるのではないか。

「うむ、問題ない」
「さぁ見せてくれたまえ」

恐る恐る部屋に入ってくる。
こ、これは……!

「あの、提督、どうでしょうか……?」

「うむ、良く似合っているではないか!」

これは素晴らしい!
シースルーの上着、官能的な下着。
さらには胸を隠すように伸びたガーターベルトが艶姿をより一層引き立てる。

「そ、そうですか!」

ちょっと嬉しそうだ。

「うむ、とてもセクシーだぞ」
「その方面で攻めた方が良いのではないか?」
「そこらの男なんて一撃ノックアウトだろう」

これは間違いの無い本心だ。

「でも、この姿で出歩くのはちょっと……」

たしかに、これでうろついていたら憲兵に呼び止められかねない。
この服装が許されるのは天津風だからなのだろう。

「たしかにそうだな」
「まぁ、いざというときの勝負服にしたら良い」

「そうですね!チャンスは確実にモノにしないといけませんからね!」
「とりあえず、元の服に着替えてきます」

ちょっと嬉しそうに隣の部屋へ引っ込んで行った。
ちょろいやつだ。
そんなところも可愛いのだが。
そして元の服装に着替えた彼女が戻ってきた。

……

「で、どうだった足柄?」

「そうですね、やっぱり何かが違う気がします」

そうだろう。
やはり足柄と天津風では路線が違い過ぎる。
最後の服装は良かったが。

「まぁ、そう簡単に見つかるものではないさ」
「そのうち足柄に合うキャラが見つかるさ」

「そ、そうよね!焦ってはだめよね!」

「うむ、足柄なら大丈夫だ」

ちょっと嬉しそうな足柄を見て私は安心した。
彼女が元気になるのならこの茶番に付き合うのも悪くはない。

「ありがとう提督、元気が出たわ!」

「それは良かった、では残りの仕事を片付けてしまおう」

「わっかりましたぁ!私、足柄に任せておいて!」

こうして今日もまた彼女は笑みを取り戻した。
この平和がいつまでも続きますようにと提督は願った。
そして提督と足柄は日常へと帰っていったのである。

- Fin -


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[ 2015/04/08 21:00 ] 艦これショートストーリー 短編 | TB(-) | CM(2)

がんばれ!足柄さん!2

清々しい朝、空には雲ひとつ無い青空が広がり、太陽も眩しく輝いている。
そんな爽やかな日差しの中、私は執務室で職務をこなしていた。

今日の秘書艦は足柄。
彼女はとても良くやってくれている。
が、今日も彼女はとても浮かない顔をしていた。

「ふぅ……」

彼女の唇から溜め息が漏れる。

「どうしたんだ足柄?また悩み事か?」

私はまたしても気落ちしている彼女に問いかけた。

「そうなんです、やっぱり気になって悩んでしまって……」

やはり男性から人気が無いことを気にしているのか。
一度気になってしまうと中々に忘れられないものだ。

「あまり気にしすぎるのは良くないぞ」

思い詰めると大体は良くない方向へ進む。
そんな彼女を放おっておくことはできない。

「ですが……」

なんとなく歯切れが悪い。

「もしかして、誰かに何か言われたのか?」
「もしそうなら、私が文句を言ってこよう」

誰かは判らないが許すまじ。
足柄は実に良い娘である。

「いえ、違うんです!」
「そうではないのですが……」

「自信が無いのか?」
「足柄はとても良く出来た娘だ、私が保証しよう」

何とかして彼女を元気づけたいものだ。

「提督……ありがとうございます」
「でもやっぱり、今の状況を打開したいんです!」

お、ちょっとやる気が出てきたみたいだ。

「うむ、向上心があるのは良いことだぞ」

「それで私、考えてたんです」
「第六駆逐隊の他に人気のある艦娘を!」

これは良くない流れな気がする。
しかしせっかく芽生えた彼女のやる気を削ぐ訳にはいかない。

「そ、そうか」
「それで、誰か思いついたのか?」

「はい!やはり人気の艦娘といえば島風ちゃんじゃないかと!」

「ふむ、島風か」
「確かに彼女は人気があるな」

島風の人気は高く根強い。
が、やはり求めている人気とは少し違う気がするが。

「そうなんです、それで島風ちゃんを研究してみたんです」

いったいどう研究したのか問い詰めたいところだが、ここは我慢だ。

「それで、どうだったんだ?」

「はい、今なら私、完璧に島風ちゃんを演じることができそうです!」

自信満々である。

「よし、ではやって見せてくれ!」

「任せて下さい!」

……

「ていとく、おはようございまーす!」

「うむ、おはよう足柄」

「あれー?ていとくおっそーい!」

いったい何が遅いのだろうか。

「別に私は遅刻なぞしていないぞ?」

「おっそーいー!」

私を遅いことにしたいらしい。

「足柄がいっちばんはっやーい!」
「はっやーいー!」

「……」

ひらめいた!

「足柄、ちょっと私を見下しながら言ってくれないか」

私は正座した。

「ていとくはっやーい!」

こ、これは中々に良いものだ。

「……」
「提督」

「はい……」

「提督の趣味にどうこう言うつもりはありませんが」
「それはちょっと引きます」

そうだろう。
やめておけばよかった。

「すまん、忘れてくれ」

「そういえば響ちゃんが、最近提督に高い場所に座らされると言っていましたが」
「もしかして……」

ギクッ

「そ、それは誤解だ!彼女の冷めた瞳で見下されたいというわけでは!」

足柄の視線が痛い。

「そ、それよりも島風はどうなったのだ」

話題を元に戻す。
まぁ、そらしたのは私なのだが。

「そうでした!」
「足柄、出撃しまーす!」

唐突である。

「どこに出撃するのだ?」

「出撃しまーす!」

頑なである。

「ま、まぁいい」
「さぁ、出撃したぞ」

そういうことにして話を先に勧めよう。

「20.3cm(2号)連装砲ちゃん!一緒に行くよー!」

なんだその無駄に強そうな連装砲ちゃんは。
しかも3体もいるではないか。

「私が一番?そうよね、だって速いもん!」

勝ったことになっているようだ。
しかし連装砲ちゃんまで用意してくるとは手が込んでいる。

「どうですか提督?」

「ふむ、中々完成度が高いではないか」

「そうよね!だって速いもん!」

速さは関係無いと思うぞ。

「ところで足柄」
「島風の人気の秘訣といえば、あの服装にもあると思うのだが」

島風はかなりきわどい服装をしている。
その魅力に当てられた提督達も多いと聞く。

「そ、それなのですが……」
「準備はしたんです、準備は……」

またしても歯切れが悪い。

「それなら見せてくれないか」
「せっかく準備したのだし、着ないのは勿体無いではないか」

「そ、そうですね」
「提督がそこまで言うなら着てみます」

ガサゴソ
隣の部屋で着替える音がする。

「て、ていとく……」

足柄は扉から顔だけ覗かせている。

「どうした、恥ずかしいのか?」

「はい、やっぱりこの格好は……」

そう言われると余計に気になるのが人情というものだ。

「さぁ、早くこっちに来るんだ」

「笑わないで下さいね……?」

恐る恐る部屋に入ってくる。
その姿は驚愕に値するものであった。

「ふふっ……」

思わず笑いが零れる。

「ていとく!今笑いましたよね!?」

ばれている。

「いや、そんなことはない」
「スゴクニアッテイルゾ」

「棒読みじゃないですか、だから嫌だったんです!」

足柄のスタイルはかなり良い。
島風もスタイルは良いが、凹凸は少ない。
その島風の服を足柄が着ると……

「うむ、変態だな」

「ていとくのばかー!」

足柄は泣きながら隣の部屋へ引っ込んでしまった。
元の服装に着替えた彼女が戻ってきた。

「すごい辱めを受けました……」
「私、もうお嫁に行けない……」

かなり落ち込んでいるようだ。
好奇心で着させたのはまずかったようだ。

「大丈夫だ足柄!私が嫁に貰ってやる!」

「て、ていとくっ……!?」

「はっはっは、心配はいらない!」
「だから落ち込むでないぞ!」

「も、もう……そんな冗談ばかり言って」

そう言いつつもちょっと嬉しそうだ。
なんとか元のテンションに戻せたようだ。

……

「で、どうだった足柄?」

「そうですね、やっぱり何かが違う気がします」

それはそうだろう。
むしろなぜいけると思ったのだろうか。
目の付け所がずれていると言うか何と言うか。

「うむ、まぁ焦らずゆっくり探せばいい」
「そのうち足柄に合うキャラが見つかるさ」

今のままでも十分な気がするが。

「そ、そうよね!焦ってはだめよね!」

「うむ、足柄なら大丈夫だ」

何だかんだ言いつつ彼女なら大丈夫だろう。

「ありがとう提督、元気が出たわ!」

「それは良かった、では残りの仕事を片付けてしまおう」

「わっかりましたぁ!私、足柄に任せておいて!」

こうして今日もまた彼女は笑みを取り戻した。
この平和がいつまでも続きますようにと提督は願った。
そして提督と足柄は日常へと帰っていったのである。

- Fin -


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[ 2015/04/04 21:00 ] 艦これショートストーリー 短編 | TB(-) | CM(0)

大型艦建造と北上

150403_大型艦建造_北上_母港

武蔵建造確率アップ期間も終わり、穏やかな日々が続いていた。

提督「うむ、そろそろ資源もたまってきたな」
  「備蓄量を超えてしまう前に使ってしまおうか」
北上「提督ー?何してんのー?」
提督「む、北上か」
  「いや、資源が溢れそうなので大型艦建造でもしようかと思ってな」
北上「大型艦建造かー、私やったことないんだよねー」
提督「ではやってみるか?」
北上「えー、いいのー?」
  「失敗しても怒らないー?」
提督「むろんだ」
  「むしろ成功する方が珍しい」
北上「じゃーやってみよっかなー」
提督「うむ、それが良い」
  「資源を溢れさせてしまうのも勿体無いからな」
北上「よーし、じゃあ提督、資源持ってきてー」
提督「私が持ってくるのか?北上が準備してくれるのではないのか?」
北上「だって私、資源の場所とか知らないしー」
提督「仕方のないやつだ、待っておれ」

……

提督「ふぅ、こんなものか」
北上「おー、さすがにすごい量の資源だねー」
提督「うむ、大型艦と名の付くのは伊達ではないぞ」
北上「それで誰を建造すればいいのさー?」
提督「武蔵だ」
北上「えー、できっかなー」
提督「まぁ、そんなに気負わずにやってみるとよい」
北上「そうねー、気合い入れても出来ないものは出来ないよねー」
提督「北上の場合はもう少し気合いを入れても良いと思うが」
北上「じゃあ提督、大型艦建造用意ー」
提督「準備完了しました!」
  (あれ?なんか立場が逆じゃないか?)
北上「よーし、大型艦建造開始~!」

カーン……カーン……カーン……

150403_大型艦建造_扶桑

北上「だめだったねー」
  「仕方ないよねーあははー」
提督「うむ、仕方が無いが、もう少し残念がっても良いのだそ?」
北上「えー、でも仕方がないじゃん~」
提督「そうなのだが……」
  「根を詰めるのも良くないからな、それくらいが丁度良いか」
北上「そうねー、良いと思うよー」
提督「では次だな」
北上「提督ー、次も武蔵狙いでいいのー?」
提督「うーむ、ボーキサイトが余り気味だな」
  「よし、次は大鳳狙いでいこう」
北上「任せて~」
  「じゃあ大型艦建造用意ー」
提督「準備できました!」
北上「大型艦建造、開始~!」

カーン……カーン……カーン……

150403_大型艦建造_飛龍

北上「おー、飛龍じゃーん」
  「けっこうレアなんじゃないの~?」
提督「そうだな」
  「しかし残念ながら飛龍はもう我が鎮守府に居るのだ」
北上「ちぇーっ」
提督「でもなかなかの引きではないか」
北上「もちろんだよー、無心で建造してるからねー」
提督「そうか、でももうちょっと気合いを入れても良いのだそ?」
北上「だめだよー、そんなことしたら出るものも出なくなっちゃうよー」
提督「む、何故だ?」
北上「世の中はそういう風に出来ているからさー」
提督「良く分からないが、そういうものか?」
  (北上は悟りを開いているのだろうか)
北上「そうよー、提督ももうちょっと無欲にならないと駄目よー」
提督「そ、そうか、頑張るよ」
北上「よろしいー」
提督「う、うむ」
  「ともかく、次だ」
北上「そうねー、まだいけるよねー」
  「じゃあ大型艦建造用意ー」
提督「準備完了しました!」
北上「じゃー、やっちゃいましょー!」

カーン……カーン……カーン……

150403_大型艦建造_あきつ丸

北上「おー、あきつじゃーん」
提督「うむ、あきつ丸だな」
  「北上、なかなかやるではないか!」
北上「ふふーん、これが重雷装艦の実力ってやつよー」
提督「うむ、さすがだ」
  「やはりその秘訣は無心で建造することか?」
北上「もちろんさー、あ、でもさっきは違うことは考えてたかもー」
提督「何を考えていたんだ?」
北上「マンガの続き読みたいなーって」
提督「北上よ、やはりもう少しやる気を出した方が良いのではないか……」
北上「いいじゃーん、結果オーライってやつだよー」
提督「そうなのだが、何か腑に落ちないな……」
北上「気にすることないってー、それよりまだ続けるのー?」
提督「そうだな、残りの資源は……」

150403_大型艦建造_残り資材

提督「グボァ!」
北上「提督!?どったの!?」
提督「ボーキサイトが……1万を切っているではないか……」
北上「そうねー、大鳳狙いで2回も建造したからねー」
提督「しまった、資源が1万を切ると気絶する病が……」
  「あぁ、目眩がする……」
北上「提督大丈夫ー?」
  「仕方がないなー、私が介抱してあげるよー」
提督「北上、すまないな……」
北上「ほら、こっちにおいでよー」
提督「うむ……」
  「では北上、後は任せ……」
北上「私も寝よ寝よー」
  「提督ー、おやすみー」
提督「おまえも寝る……ん……かい……」ガクッ

こうして提督は眠りについた。
そしてまた北上も眠りについた。

武蔵、大鳳の建造には失敗したが、資源はまた回復する。
提督と北上はその時をのんびりと待ち、また大型艦建造に挑むだろう。

- Fin -


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がんばれ!足柄さん!

清々しい朝、空には雲ひとつ無い青空が広がり、太陽も眩しく輝いている。
そんな爽やかな日差しの中、私は執務室で職務をこなしていた。

今日の秘書艦は足柄。
彼女はとても良くやってくれている。
が、今日の彼女はとても浮かない顔をしていた。

「ふぅ……」

彼女の唇から溜め息が漏れる。

「どうしたんだ足柄?何か悩み事でもあるのか?」

私は珍しく気落ちしている彼女に問いかけた。

「そうなんです、最近悩んでいる事があって……」

やはり彼女は悩んでいるようだ。
一見悩みなど無さそうに見える彼女だが、悩みの一つや二つあるのだろう。

「何に悩んでいるんだ?私で良ければ聞こうじゃないか」

秘書艦の心理面を管理するのも仕事の内だ。
それに何より暗い彼女を見たくはない。

「私、人気が無いみたいなんです……」

「いったい何の人気なんだ?」

「もちろん男性からの人気です」
「やはり皆羽黒みたいな淑やかな女性が好みなんでしょうか?」

何かと思えばそんな事か。
と言えば怒られるかもしれないが。

「そんなことは無いと思うぞ」
「好みなぞは人それぞれだ」

実際足柄の人気は高い方だと思うが。

「そうでしょうか?」
「でも私は人気が無いんです……」

なぜそう思い込んでいるのか理解に苦しむ。
が、悩んでいる以上解決せねばならない。

「人気が無いなら、人気が出るようにすれば良い」

そのままである。

「確かにそうですけど、どうやって?」

そこまでは考えていなかった。
どうしたものか。

「うーむ、人気のある艦娘を真似てみるのはどうだ?」
「いわゆるリスペクトと言うやつだな」

勢いで言ってしまったが、これで良かったのかは疑問だ。

「そうですね!さすが提督、いい考えです!」
「じゃあさっそくやってみましょう!」

彼女は乗り気だった。

「それで、誰の真似をするつもりなのだ?」

「人気がある艦娘といえば、第六駆逐隊ですね!」

何故そのチョイス。

「いや、確かに人気はあるが、それでいいのか?」

彼女が求めている人気とは違う気もするが、まあ良いだろう。

「もちろんです!彼女達の人気は一二を争うほどですから!」

「第六駆と言っても4人いるぞ、誰を真似てみるのだ?」

「そうね、どうしようかしら」

……

「うーん、やはりネームシップである暁ちゃんですかね」

きわどい選択である。
まぁ物は試しと言うやつだ。

「うむ、とりあえずそれをやってみようじゃないか」

「わかりました提督!では……」

いったいどう真似るのだろうか。
これはこれで興味が湧いてきた。

「提督!ちゃんと足柄を一人前のレディーとして扱ってって言ってるでしょ!」

そうきたか。
暁と言えばレディーだが、安直すぎやしないか。

「もちろん、いつでもレディーとして扱っているぞ」

「そう言っていつも子供扱いするんだから!ぷんすか!」

ふふっ……すごい破壊力だ。
いかんいかん、笑っては駄目だ。

「そ、そうだな、気をつけるよ」

頬の筋肉よ、静まるのだ!

「こんな感じかしら?」

「うーん、何か違う気がするぞ」

「そうかしら」

……

「じゃあ次は響ちゃんよ!」

「よし、やってみるんだ」

響なら、まだマシだろう。
頬筋には優しいはずだ。

「ハラショー」
「スパスィーバ」
「ウラー!」

ただのロシア語である。

「足柄よ、それはそれで響っぽいが、違わないか?」

「そうかしら?特徴を掴んでいると思ったのに」

間違ってはいないが、間違っている。

「響と言うより、ヴェールヌイになっているぞ」

「そうね、響ちゃんは寡黙だから難しいわ」

キャラ的に足柄とは真逆だから難しいだろう。
そもそも足柄は黙っていられないのではないか。

「そうだな、さすがにキャラが違いすぎる」

「そうよね」

……

「じゃあ次は雷ちゃんね!」

「よし、トライだ!」

雷なら以外と合うかもしれない。

「司令官!元気無いわね!」

いや、元気が無かったのは君の方だが。

「私がいるじゃない!もーっと頼ってもいいのよ!」

「そうだな、足柄よろしく頼むよ」

あれ、これはこれでいける気がしてきたぞ。

「もちろんよ!司令官、私は何をすればいいの?」

「そうだな、艦隊の再編成を頼む」

「わかったわ!」

~♪~♪

あれ、なんだか楽しそうに仕事をこなしているぞ。
いや、楽しいなら良いのだが。

「できたわ司令官!」

「おお、ありがとう足柄」

「次は何?もーっと頼ってもいいのよ!」

「うむ、足柄、中々良い感じではないか」

素直な感想を述べる。
暁や響よりは合っていると思う。

「そうかしら?これで行ってみようかしら!」

「うむ、良いと思うぞ」

……

「でもせっかくだから電ちゃんもやってみようかしら」

駄目だ!それだけはダメだ!
足柄に電のキャラは色々と厳しいものがある。
しかしそうは言ってしまえば彼女を傷つけてしまう。

「う、うむ、良いのではないか」

この緊急自体を回避する術はないのか。
とりあえず深呼吸をして落ち着こう。

「司令官さん、足柄は何をすればよいのですか?」

あれ?以外と普通だ。

「そうだな、遠征を進めてくれないか」

「わかりましたなのです!」

~♪~♪

おかしい、普通だ。
これは何かの前触れに違いない。

「はわわわ!司令官さん、困ったのです!」

ふっふふふ……
これは想像以上の破壊力だ。

「ど、どうした足柄」

「遠征メンバーが一人足りないのです!」

「そ、そうか、では私が選定しよう」

「ありがとうなのです!」

落ち着け、落ち着くのだ。

「はわわわ!司令官さん!」

ふっふははっ……
足柄は完全に私の頬筋を狙っている。
さすが飢えた狼だ、容赦無いな。

「ど、どうした足柄」

「はわわわ!足柄、遠征任務を間違たのです!」

ぐっふふふふ……
これ以上はもたない、なんとかしなければ。

「も、問題無い。その編成なら成功する」

「良かったのです!ありがとうなのです!」

ここで笑ってしまっては提督としての沽券に関わる。
心を無にするのだ。

「足柄、やはり電よりは雷の方が合っていると思うぞ」

ここは話題を変えて乗り切るしかない。

「そうかしら?でも電ちゃんも楽しかったわ!」

やめて下さいお願いします。

「う、うむ、とりあえず第六駆は全員終わったな」

……

「で、どうだった足柄」

「そうですね、何かが違う気がします」

それはそうだろう。
むしろなぜいけると思ったのだろうか。

「まぁ、真似をしたからといってすぐに人気が出るわけでもないだろう」
「気長に探せばいいさ」

そう簡単に変わるものではない。
世間の評価も、自分自身も。

「そうよね、焦ってはだめよね」

「うむ、足柄なら大丈夫だ」

少し元気になったようだ。
やはり彼女に暗い雰囲気は似合わない。

「ありがとう提督、元気が出たわ!」

「それは良かった、では残りの仕事を片付けてしまおう」

「わっかりましたぁ!私、足柄に任せておいて!」

こうして彼女は笑みを取り戻した。
この平和がいつまでも続きますようにと提督は願った。
そして提督と足柄は日常へと帰っていったのである。

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[ 2015/04/01 21:00 ] 艦これショートストーリー 短編 | TB(-) | CM(2)





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